鉛玉をあなたへ
@Alikona
第1話 雪のように
雪がひらひらと舞っている。あぁ、ずいぶん積もったな。
信号がタイミングよく赤になってしまう。クソ。
今日はずいぶんと寒い。彼女の手も冷たかった。
「私帆、寒くない?僕の上着貸そうか?」
「ううん、平気だよ。ありがと」
そういって彼女は優しく微笑んだ。
この辺りでは気温が氷点下になることなんて、冬は当たり前だからある程度は寒さに慣れているけれど、今日は今までの比じゃないほど寒かった。
信号がなかなか青にならない。
どうしてこうも待っているときのほうが長く感じるんだろうか。そんなどうでもいいことばかり考えていたせいで、彼女が赤信号なのにもかかわらず横断歩道の真ん中を突っ立っているのに気付くのに2、3秒時間を要した。
「何やってるの、私帆。危ないよ」
「夕太」
僕の言葉に被せ気味に彼女が名前を呼んできた。
幸せそうな笑顔、綺麗な髪、寒さで少し震えているからだ。
「今までありがとう、夕太のおかげでとっても楽しかった。私はあなたを――」
私帆が言い終えるよりも前にトラックの鈍いブレーキ音、そして
グシャ
という音が交互に聞こえた。
僕の足元に、何かが勢いよく吹っ飛んできた。
血塗れで頭部は半分ほどなくなっている、私帆の死体が。
そっと頬に触れると、氷みたいに冷たかった。
......まただ。またここで目が覚めた。いつもそうだ、14年前のあの日をいつまでも、いつまでも夢に見る。
気怠い体を気合で起こして洗面所まで向かう。
ふと鏡に目をやる。
はは、私帆、見てくれよ。俺はもうこんなに皺が増えたよ。物覚えも悪くなった。
でも、君のことだけはいつまでも、忘れられないよ。
顔を洗って、寝癖を直して、リビングまで戻る。
はぁぁ、これからまたゴミみたいな一日の始まりだぜ。
自分でもしょうもない人生を歩んでいる自覚はある。彼女もいなければまともな友達すらいない。
でも、しょうがないじゃないか。僕だけ幸せに生きたら、死んでしまった君に申し訳ないから。
そう自分に言い訳して今日も会社へ出勤をする。
相も変わらず今日も暑い。
鉛玉をあなたへ @Alikona
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