第9話 進むべき道

 下の階層の様子を見に行ってから、俺は、すぐに戻ってきた。戻ってくるしかなかった。

 とりあえず、この場所は安全だと思って問題ないだろう。この側に倒れている鳥を倒すのに、大分、消耗させられてしまった。

 ここで、相応の見返りを求めるとしたら1つしかない。どれだけ、レベルが上がったかだ。この鳥と戦う直前のレベルが、29だった。せめて、3か4くらい上がっていれば御の字だろう。

 そう思いながら、ステータスプレートに触れた。

 情報が更新されて、新たな情報が映し出される。


『名前:黒井レン

 種族:人間?

 年齢:17歳

 性別:男

 レベル:40

 職業:傀儡師

 能力:操術・傀儡化・傀儡収納・未来視・傀儡強化・修復』


 異常なくらいレベルが上がっていた。いや、俺はこの世界についての知識が豊富なわけではない。もしかしたら、これくらいの上り幅は普通なのか?

 それと、レベルの項目と同じくらい目を引いたのが『未来視』だ。あまりにも発動しないから、その存在を忘れそうになっていた。こればっかりは、知らないことが多すぎて、発動するのを待つしかない。

 それにしても、急激にレベルが上がったが、これといった実感がない。おそらく、変化があるとすれば、身体能力などの向上だろう。

 物は試しで、斬られた左腕に『修復』を使用した。思っていた通り、修復スピードが、1秒ほど速くなった。たったの1秒ではあるが、この1秒が戦いの中では大きな意味を持つ。

 自分の『修復』を終えると、戦いの中で壊れた傀儡にも『修復』を施していった。

 絶対に安全とは言い切れないが、魔物が襲ってくる様子のない此処ならば、1つ1つのことを落ち着いて出来る。

 

「あとは、コイツか・・・・・・」


 残されたのは、目の前にある敵の死骸。こんな大物を、『傀儡化』しないという選択肢はない。それに、試したいこともある。それは、血液を使って『傀儡化』の陣を描くというもの。

 この怪物鳥との戦いのおかげで、『傀儡操術』で自身の血液を操れることは分かった。精密な操作は体が感覚で覚えている。

 あとは実行するだけ。

 右の手のひらに、切り傷を入れて、その手を地面へと当てた。流れ出る血液を、陣の形へと整えていく。羽を形作った時以上に、正確なイメージが必要となる。おまけに、今回『傀儡化』する対象のサイズが今までにない大きさだ。

 当然、それ相応の血液を使うことになる。

 それでも、多少の負担を背負うだけの価値があった。それは、陣を描く速さだ。

 実際、普通に描く時の何倍もの速さで、陣を描くことが出来た。こうなれば、あとは『傀儡化』終わるのを待つだけだ。

 そう思っていた矢先だった。

 描いた筈の陣が消えた。失敗かと疑ったが違う。この感覚は、成功した時と同じ感覚だ。だとすれば、あまりにも速すぎる。

 とりあえず、確認するしかない。

 成功しているならば、『操術』で操れる筈だ。物は試しで、傀儡となったであろう怪物鳥を動かしてみた。

 『傀儡化』は成功していたようで、ちゃんと動かすことは出来た。だが、反応するべきポイントは、そこではない。

 

「おい、変わりすぎじゃねぇか・・・・・・」


 明らかに、怪物鳥の容姿が変化している。さらに迫力が増したと言うべきだろうか。どうして、こんなことになったのかは分からない。考えられるとすれば、俺のレベルアップと、血液で陣を描いたことくらいだ。

 とはいえ、悪いこと起きたわけではない。

 

「折角のことだ、お前には名前をつけてやろう」


 俺は、ファーストの名を与えた。安直ではあるが、問題はないだろう。

 これで、新たな戦力が増えた。

 そう、次の階層に向かうのに戦力が多いに越したことはない。それは、俺自身にも言えることだ。

 レベルアップした身体に慣れる必要がある。

 その為にも、この階層内で、ひたすら身体を動かす。鍛錬とでも言うべきだろうか、今のままでは下に下りても確実に殺される。

 やはり、ここで技を磨かなければならない。

 今の俺の身体は、常人の身体に負けない強さを持っている。だが、俺自身は、戦いにおいて素人同然だ。前の戦いだって、自分の能力だけで押しきったようなもの。今後、それだけでは通用しない相手が数多くなる。

 俺は、ただひらすらに鍛錬を続けた。時間の経過を気にすることなく。

 

「ハァッ、ハァッ、この程度じゃ駄目だ。せめて、あの怪物鳥を余裕で倒せなきゃ先には進めねぇ」


 当然、能力の鍛錬も行った。特に『操術』には時間をかけた。これに関しては、色々と応用出来ることがあって、鍛錬のしがいがあった。

 それに、能力面は未だ自分自身でも知れていないことがある。それを確かめるためにも、能力面での鍛錬は欠かせなかった。

 とはいえ、1人だけでの鍛錬にも限界はある。前の戦いのように、実戦で気付けることもあるだろう。

 そう思い、俺は限界を感じたタイミングで、鍛錬をやめた。


「行くか」


 今の状態にも満足かと聞かれれば、迷わず否定するだろう。何せ、次に進む階層を、一瞬だが見てしまった。その時の絶望感を思えば、この程度の準備で満足など出来る筈がない。

 だが、そうであったとしても、今の俺に、ここで出来ることはない。

 ならば、迷わずこの階段を下りるだけだ。

 それに、地獄なら既に何度も見てきた。そんな俺が、これ以上何を恐れる必要がある。

 向かってきた敵は、全て殺す。他に何も考える必要はない。

 そう思っただけで、俺の足は自然と前に進んだ。

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最弱無双~絶望を知った少年が世界を変える~ @purur02

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