第8話 本当の地獄

 今度は敵の攻撃ターンとなった。驚くことは色々とあるが、そんな隙を見せる暇すらない。

 羽根が突き刺さった箇所は、すぐさま『修復』を使った。

 

「クソッ、またかよ」


 最初と同じで、数えきれないほどの羽が降りかかってくる。いや、最初とは少し違うところもある。明らかに、最初の攻撃よりもスピードが上がっている。

 そこで気付かされる。コイツは、手加減をしていたのだと。それを理解した瞬間、屈辱でしかなかった。しかし、実際、こうして少し本気を出されて途端、押されてしまっている。

 傷を負った箇所から『修復』を使っているが、使い過ぎて修復スピードが遅くなっている。

 やはり、地上というハンデは大きい。俺も飛ぶことが出来たら、戦況も変わっていただろう。いや、無い物ねだりをしても意味はない。

 今ある力で、何とかしなければ・・・・・


「そうか、ないなら作ればいい。やるのは初めてだが、何とかなるだろ」

【傀儡操術・血操けっそう


 この技は、ふと思いついた技の1つだ。ただ、実際には使ったことがない。この技の考え自体は、今の体になった時からあった。何せ、自分の体を『傀儡化』したんだから、その1部である血液を操れても不思議じゃない。

 とはいえ、それに要する集中力は今まで以上だ。ましてや、それを敵の攻撃を避けながら行わなければならない。

 それでも、今はやるしかない。

 体内に流れる血液を限界まで背中へと集約させる。その血液を、背中を突き破って外へと出して、羽を形作った。

 何とか形は出来上がる。問題は、飛べるかどうかだが、その心配は必要なかった。

 

「うおっ」


 『操術』で羽を動かすと、一気に上昇した。その速度は、スピードに特化した敵に追い付きそうな程だ。その分、操作が難しく、単純な動きしか出来ない。だからこそ、動きながら感覚を掴むしかないだろう。

 そう思った瞬間だった。自分の服に血が付いていることに気が付いたのは。その血には心当たりがなかった。血が出ている場所へと辿っていくと、自分の鼻であることに気付く。それに気付いた瞬間、脳に衝撃が走る。

 その原因は考えなくても分かった。『操術』を多用したことで、脳の処理速度が限界に達したのだ。集中しすぎていたせいで、そのことに気付くのが遅れてしまった。

 それでも、敵の攻撃が止まるわけではない。現に今も、攻撃を続けてきている。ここで限界について考えていたら、死んでしまう。

 今考えるべきは、アイツを殺すことだけ。

 敵の羽根を避けながら、真っ直ぐ敵へと向かって行った。当然、距離を詰めれば、敵も距離をとってくる。だが、今の俺ならば、その距離を離されることはない。

 そして、約1メートルの間隔にまで詰めることが出来た。その瞬間だった。敵の方から、俺の体と変わらない大きさの風の刃が飛んできた。

 このタイミングで、見たことのない技かよ。

 距離を詰めていたのに加えて、トップスピードだったことで、避けきれなかった。いや、腕一本で済んだと思うべきだろう。

 その間に、再び距離を離されてしまった。ここで、距離を詰めに行っても、同じことの繰り返しとなる。それを理解しての攻撃なのだろう。

 本当に、イヤな敵だ。

 どうするべきだろうか。もし、アイツに近づいて攻撃をしようとすれば、あの風の刃が襲いかかってくる。逆に、距離をとって攻撃しようとしても、今の俺に、アイツの羽毛を貫けるほどの攻撃を持ち合わせていない。

 完全に手詰まりの状態。


「マズいな、このままだと終わるな・・・・・・」


 何か打開策を考えなければ。とは言っても、近距離での攻撃しか方法がないだろう。理想を言えば、一撃で終わらせられるのが最善だ。

 こうなれば、出せるもの全てを出し切るしかない。

 まず行ったのが、手が届く範囲にまで、距離を詰めること。もちろん、距離を詰めれば、風の刃が襲いかかってくる。そのタイミングを見計らって、風の刃が目の前に来るのと同時に、『傀儡収納』から、3体の傀儡を取り出した。目論見通り、3体の傀儡を一列にしたことで、3体目で風の刃を止めることが出来た。これが、2体だけならば、間違いなく俺の体にまで届いていた。

 盾になってくれた傀儡のおかげで、手の届く範囲にまで近づく。そこで俺は、飛行を止めて、敵の背に飛び乗った。

 敵は、俺を振り落とそうとする。それでも、俺はしがみつく。ここで、攻撃を当てる。いや、ここで止めを刺す。


【傀儡操術・血操】

 

 再び、血液の操作を行った。だが、今回は羽の為ではない。操作した血液を、全て右腕へと集約させる為だ。

 俺が操っている血液は、体内の殆どを使用している。今の俺の体重は、およそ73キロといったところだろう。血液は、体重の13分の1とされている。つまり、俺の右腕は、約6キロの重みを増したことになる。

 重さは、力へと変換されていく。

 さらに、ダメ押し程度に、『傀儡強化』を施した。

 そして、狙うのは敵の頭部。


「今度こそ、落ちろ!」


 俺が振るった拳は、狙い通り、敵の頭部へと直撃した。

 そのまま、敵と一緒に落下していく。勢いよく落ちただけに、相応の衝撃が部屋中に響き渡る。

 直接殴ったからこそ、手応えを感じた。

 それでも、俺は油断しない。もしかしたら、まだ何か隠しているかもしれない。正直、俺としては、これ以上戦うのは御免だ。

 動かないでくれ。そう思いながら、倒れている怪物鳥の側へと寄った。その姿を見て、死んでいるのが伝わった。俺が狙って攻撃をした頭部が潰れてしまっている。

 念のため、少しの間様子を見たが、動くことはなかった。

 これで、シュウも少しは報われるだろうか。そう思いながら、一息つこうとした。その時、どこかで叫んだ魔物の声が、この部屋にも響く。

 それを聞いて、ゆっくりと休むわけにもいかない。様子見ていどに、音の発生源へと近づいていく。そして、ある場所で足が止まる。

 それは、この階層内にある下へと続く階段だ。

 魔物の叫び声は、間違いなく下の階層から。ただ、今の満身創痍の状態で、下へと下りるつもりはない。だが、様子を見ておくことも必要だ。

 だから、何があっても一目だけ見て帰ってくると決めた。

 そして、周囲全体に警戒しながら、下の階層へと下っていく。前回とは違い、急に何かが起こることはなかった。

 だが、そんなことはどうでもいいと思うくらいの光景が広がっていた。


「おいおい、マジかよ・・・・・」


 そこには、今まで必死になって倒してきた敵を凌駕するような魔物の姿しかない。

 どうやら、本当の地獄は、ここからのようだ。

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