第7話 怪物の殺し方

 狼の魔物を仕留めてから、俺はこの階層にいる他の魔物も仕留めにかかった。

 その理由はシンプルで、俺が強くならなければならないからだ。

 俺の次の目的が、あの怪物鳥を倒して先に進むこと。その為には、戦力をととのえる必要がある。準備をしすぎるに越したことはない。

 とりあえず、ここの階層にいる魔物は一通り倒していった。その道中で、誰かが使っていたであろう武器類が落ちていたから、全て回収した。

 そして、倒した魔物や、拾った武器類は全て『傀儡化』を行った。俺のレベルが上がったからなのか、『傀儡化』出来る数が格段に増えた。それと、『傀儡化』をすれば、『傀儡収納』が使えるから、自分が持つ荷物を減らすことが可能となる。

 そんなことばかりしている期間約4日。そのおかげで、この階層内ならば、自由に行動出来るくらいの実力はついた。だから、この階層内をじっくりと見て回ったことで、気づいたことがある。この階層内には、下に続く階段はあっても、上に続く階段はないことに。

 とはいえ、上に続く階段があったところで、俺の目的は変わらない。


「これで、準備は整った。あとは、アイツを殺すだけだ」


 ただ、今すぐに行動するわけではない。この体といえど、疲れは感じている。そんな状態で勝てると思っているほど驕ってはいない。だからこそ、しっかりと一日休息をとる。

 少し前の俺ならば、こんなところで落ち着いて休息などとれなかった。それでも今は、この階層内ならば敗ける相手はいない程度の実力は身に着けている。

 そのおかげもあって、安心して眠ることが出来た。

 とはいえ、お世辞でも快適とは言えないこの場所で、何時間も眠るのは無理がある。

 そんな訳もあって、思いのほか早く目が覚めてしまった。だが、それはそれで良いと感じてしまっている。俺が無意識に、あの怪物鳥と早く戦いたいと思っているのかもしれない。

 今の体調は良好。戦うには充分な状態だ。

 ようやく、あの時のお返しが出来る。その思いが、再び俺を、この階段の前に立たせているのかもしれない。

 あとは、下りるだけ。この先に待っているのは、ここよりも過酷な場所だ。それでも、この階段を下りていく。

 真っ先に警戒するのは頭上。

 その警戒通り、下りてから上を見上げると、あの怪物鳥が見下ろしている。俺に気付いた瞬間、羽根を使った攻撃を仕掛けてきた。


「それは、一度見たんだよ。二度も同じ攻撃を喰らってたまるか!」


 前と同じで、数えきれないほどの大きい羽が、上から降ってくる。数こそ多いが、避けきれない速さではない。

 数が多いとはいえ、限りがある。それまで避け続ければ、どこかのタイミングで隙が出来る筈だ。

 そう思っていると、徐々に降ってくる羽の数が減ってきた。

 そして遂に・・・・・・


「止まったな」


 羽根による攻撃が止まり、すぐさま敵の位置を確認しようと上を見た。だが、既に上空に敵の姿はない。咄嗟に周りを見ると、背後から猛スピードで迫っている怪物鳥の姿があった。

 何とかギリギリのタイミングで気付いたおかげで、当たらずに済んだ。

 俺は大事なことを失念していた。何と言っても、相手は鳥。今まで相手にしてきた敵と違って、足音などするわけがない。そんなことを忘れてしまったせいで、簡単に背後を取られてしまった。

 いや、音がなかったからなのもそうだが、単純に、敵が想像以上に速い。そんな敵の攻撃を避けながら、攻撃を仕掛けなければならない。

 ただ、今までの敵と違い、地上での攻撃は届かないのは明らかだ。その点においては、対策はしている。

 俺は、収納していた『傀儡化』をした武器を取り出した。その数、15本。


「これが、今の最大質量だ」

【傀儡操術・剣舞】


 俺が、空中の相手に対してとれる最大の攻撃手段だ。その詳細はシンプルなもので、『傀儡化』していた武器を操って、敵を攻撃するというもの。これならば、飛んでいる敵であっても、攻撃をすることが可能となる。

 15本の武器の操作。この数の武器を操作するためには、相応の集中力が必要となる。そのせいで、これ以外のことが出来なくなってしまう。

 そのデメリットを背負いながらも、攻撃の手は止めない。

 

「クソッ、どんだけ速いんだよ」


 こっちの攻撃を簡単に避けやがる。

 戦っていて分かるのは、コイツが凄いのは攻撃力じゃなく、圧倒的なまでのスピードだ。それを標的として、攻撃を当てるのは困難なことだ。

 今も、まだ掠ってすらいない。

 とはいえ、今の状況が決して悪いことばかりではない。流石の怪物鳥と言えど、この質量を相手にすれば、避けることしか出来ないようだ。現に、今も攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 ならば、この間に倒すしかないだろう。

 コイツ相手にスピードで勝負しても勝ち目はない。俺が現時点で、コイツに勝っているのは頭脳だろう。

 俺は咄嗟に思いついた策を、すぐに実行した。

 数分間、同じことを繰り返す。確実に攻撃が当たるタイミングを見計らう。

 そのタイミングとは、俺が自分の中で決めたポイント。そこを敵が通過した瞬間が、攻撃の合図。

 何とか攻撃のフリをしながら、ポイントの場所へと誘導していく。そして、敵がポイントの場所へと近づいていった。

 

「ここだ、落ちろ!」


 敵がポイントの場所を通過した瞬間、敵の視界から外れるくらい上に待機させておいた剣を、真下へ落とした。

 いくら速くても、不意を突いた攻撃は避けられなかったようだ。

 15本もの武器から追われている中で、常にその数を見続けるのは簡単なことではない。まさか敵も、途中で一本減っていたとは思っていないだろう。

 これは、魔物である敵には出来ない騙し討ちだ。

 どんな勝ち方であろうと、勝ちは勝ち。

 これだけ強ければ、『傀儡化』をした時に、大きな戦力となるだろう。そのためにも、しっかりと止めを刺しておかなければ。

 俺は操っていたうちの一本の剣を手に取り、首を狙って振るった。


「何・・・・・・・・!」


 それは、俺の予想していたことではなかった。まさか、振るった剣が羽毛に当たった瞬間、砕け割れてしまった。

 それだけではない。全て避けきったと思っていた筈の、敵の羽根が俺の体に突き刺さった。

 その瞬間、側で倒れていた怪物鳥が、翼を広げて再び飛んだ。そこで思い知らされる。俺が当てたと思った攻撃は、大したダメージになっていない。

 いや、気にするべきことは、そこじゃない。


「学習したのか・・・・」


 確証はないが、コイツは、俺がやったことを理解して、同じことを俺に仕掛けきた。

 これだけは間違いない。

 ただの魔物と思っていたが、コイツには学習能力がある。

 

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