第6話 変わったものと変わらぬもの
「うっ・・・・・・」
あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。少なくとも、1時間は経過している筈だ。
今、こうして目を開けることが出来ているということは、賭けに成功したらしい。
体からは、痛みが消えている。その体を、いつもと同じように動かそうとしているが、思い通りに動かない。そこで思い出す。自分の能力で自分を『傀儡化』したことに。
僕は、あの時たしかに死んだ。だが、事前に描いておいた『傀儡化』の陣が時間差によって発動したことで成功したのだろう。何と言っても、『傀儡化』は生きているものには使えない。まさか、『傀儡化』の弱みとされていた発動までの時間の遅さが、役に立つことになるとは。
そうなれば、僕は今、自分の傀儡となったということか。それならば、普通に動かそうとしても動くわけがない。
傀儡を動かすには、『操術』が必要となる。それを思い出し、改めて『操術』を用いて体を動かした。
「うおっ、何だコレ」
何とか手足を動かして、体を起こすことが出来た。ただ、いつもと違う体の動かし方に違和感しかない。
慣れない体の動かし方のせいで、少しだけ動きがぎこちなくなってしまう。それでも、こうして再び動くことが出来る。何より、違和感を覚えたのは自分の体のサイズ感だ。
壁を見ると、そこに今の自分の姿が映る。
それを見て、驚かずにはいられなかった。体格が少し大きくなったこともそうだが、何よりも容姿に目がいってしまう。まさか、前の自分と、シュウの容姿を混ぜ合わせたような容姿になっているとは。
よくよく考えれば、不自然な点は何個かある。まず、斬られて失ったはずの左足があること。そして、僕の側にあったシュウの遺体が消えていること。それに加えて、シュウと同じ目。
これだけのことが揃えば、察しはつく。どういうわけか、僕の遺体とシュウの遺体が混ざり、1つの傀儡となって復活したのだろう。
念のため、ステータスプレートを取り出した。
「名前:黒井レン
種族:人間?
年齢:17歳
性別:男
レベル:20
職業:傀儡師
能力:操術・傀儡化・傀儡収納・未来視・傀儡強化・修復」
思った通り、ステータスに大きな変化があった。知らない能力も増えているし、レベルも上がっている。それに何より、種族欄に?マークがついてしまった。これに関しては、何も言えない。
悔しい、憎い。そんな感情が唐突に湧いてくる。もしかしたら、これはシュウが抱いていた気持ちなのかもしれない。体の一部を貰ったことで、シュウの残留思念が流れ込んできたのだろう。僕は、それを拒む気はない。むしろ、喜んで受け入れる。何と言っても、今生きていられるのはシュウのおかげなのだから。
「シュウ、ありがとう。君に救われた命は無駄にしないよ。僕、いや、俺が君の思いを継いでいくから」
その一言を残して、この場を離れた。
そして、あの場を離れて真っ先に行ったのが、迷宮内を歩いて回ることだ。これは、今の体の動かし方に慣れるようにするためである。
動いていて気付いたことは他にもある。この体になってから、食欲と痛覚がなくなっていた。食欲はないが、以前の体と同様に普通に食事はとることが出来た。
一番大きく変わったと言えば・・・・・
「身体能力だよな」
体は前よりも大きくなったが、動かし方に慣れると、格段に早く動けるようになった。他にも、試しに近くの岩を殴ってみたら、前だったら壊せない岩も粉々に出来た。
どうやら、この体になったこともそうだが、レベルが上がったことによって身体能力が大幅に向上したようだ。それに加えて、新しい能力の1つである『傀儡強化』によって、さらに身体能力が向上した。
突然手にした力に驚きはある。
ただ、この力があれば、迷宮を出ることが出来るかもしれない。その為には、下の階に下りて、あの怪物鳥を倒さなければならない。その前に、この階層でやり残したことを、やる必要がある。
俺たちを殺して、のうのうとしている狼のような魔物を仕留めることだ。なんて、張り切ってはいるが、どうやって見つけるのかを考えていなかった。
どうしようか。この場で待っておくのか、この階層内を歩いて回って見つけようとするのか、どっちにしよう。
そう考えている時だった。
何かが近づいてくる音が聞こえてくる。前も同じような状況だったが、あの時は真っ先に振り返って逃げることを選択した。だが、今は違う。自分から、音のする方へと向かって行く。
少し先に、狼のような魔物が近づいてきていた。間違いない、コイツがあの時の魔物だ。
敵も俺の存在に気付いた。
「久しぶりだな、犬っころ。あの時の借りを返しにきたぞ」
改めて、目の前に立って分かる。これが、魔物と戦うということなんだと。力を手にした今でも、敵からのプレッシャーを感じてしまう。
敵は前と同じで、俺を餌としか見ていない。たしかに、前の俺ならばそうだった。だが、今は違う。
コイツを仕留めることで、嫌な記憶を払拭する。
俺と敵の間は、約4メートル。この距離ならば、一瞬で詰めて攻撃が放てる。何より、敵は油断しかしていない。
【傀儡強化】
今できる最大限の強化を自分に行う。敵は、俺が何かをしているのに気付いたのか、攻撃を仕掛けようとしている。
だが、少し遅い。
俺の方が先に、敵の懐へと入った。
この距離まで詰めれば、避けようがない。
「これでも喰らってろ!」
限界にまで力を込めた右ストレートを、敵の腹部を狙って放った。
手応えは完璧。その手応え通り、狼のような魔物は後方に吹き飛んでいった。仇の1つでもある相手を仕留められてのは素直に嬉しい。それと同時、前の俺は、こんな相手にすら勝てなかったのかと思うばかりだ。
とはいえ、これでコイツへの借りは返せた。
これが、俺の新たな第一歩となるだろう。
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