第1話

「この電車はのぞみ947号、東京行きです。停車駅は新大阪、京都、名古屋、東京です。次は新大阪に止まります」

 車内放送が流れる中、子供たちは窓の景色に目を輝かせていた。

「デカい建物がいっぱいだ!」

「すごく大きいのね」

 子供達は、生まれた世界では一つもなかったガラス張りのビル街を興奮した様子で見ていた。

 京都を出ると、列車は時速280キロで日本の大地を駆け抜けて行く。

「鉄の塊なのにすっごく速い!」

 ララがそう言って、一瞬で流れる窓の景色を見ていた。

「この列車は新幹線と言って、500キロの距離を2時間で走るんだ」

 雄一の説明に、子供たちが驚く。

「500キロって言ったら馬でも早くて3日はかかるのに」

「すげえ── こんな鉄の塊をどんな魔法で動かしてるの?」

 クルルがそう聞いたので、雄一は答えた。

「魔法じゃない、電気だ」

「電気?」

 二人はきょとんとした顔になった。


「東京── 東京です──」

 やがて列車は終点の東京に着き、3人は列車を降りた。

「すごい人」

「みんな父さんと似た格好してる」

 子供達は、辺りを見渡しながら雄一について行く。

 駅舎を出ると、まだ灯りがついている高層ビルがいくつもあった。

 ララが咄嗟に目を閉じた。

「どうした?」

 雄一がララに聞くと、彼女は声を小さくして言った。

「眩しい──」

 あっちの世界では、夜道にランプが数個ある程度でちょうど良い明るさだったが、東京の町はその数千倍の明るさに相当する。雄一からすると、なんて事もない明るさだが子供達からすると太陽を直視するのと同じなのである。

「すぐ慣れるさ」


 雄一の自宅のアパートに着くと、中年女性の大家がまだ起きていた。

「あら、石山さん! 1週間も開けてどこ行ってたんですか?」

「いや、親戚が急死したもので── そいつの子供を引き取って来たんです」

 雄一は大家にそう説明する。

「あら〜、それはご愁傷様。大変だったでしょう」

「ええ、まあ──」

 大家と話した後、雄一は8年ぶりに帰宅した。

 部屋は、狭い2DKの部屋で、3人で暮らすには少し窮屈にも思える部屋だった。

「あれ、おかしいな」

 雄一が、電気のスイッチを押すが灯りが付かない。

「電気代は自動引き落としのはずだぞ」

 不審に思った雄一は、大家に聞いてみる事にした。

「電気が付かない? ああ、それなら電力会社に言って止めてもらったわ。何かあったらいけないと思って── 電力会社には私の方から言っておくから一晩だけ炊いてくれない」

「そうですか──」

 自分の部屋に帰ると、ろうそくの周りを子供達が回っていた。

 二人を見て、雄一はある事を思いついた。

「ちょっと父さん出かけてくる」

「え、また」

「ああ、すぐ帰ってくる」

 そう言うと、雄一はアパートを出て公衆電話を探しに行った。

「公衆電話使った事なんて一度もないな──」

 電話ボックスを見つけると、雄一はある人物に電話をかけた。

「その声は石山氏でござるか! 石山氏、無断欠勤で部長が──」

「今から俺の家に来てくれないか? 大事な話がある」

「どうしたでござるか? 石山氏が拙者に大事な話などと── まあ拙者が呼ばれると言うことは、2次元に関する事でござるなデゥフフフフボォ」

 出た相手は、何処か気持ち悪い喋り方をしていたが雄一は気にしなかった。

 数十分後、雄一は部屋で子供たちと一緒に待っていると玄関のドアからノックする音が聞こえた。

「石山氏、拙作でござる」

「おお、来たか」

 雄一がドアを開けると、そこには美少女アニメのTシャツを着たかなりぽっちゃりの男が立っていた。同僚でオタクの中西である。

「石山氏、話とは──」

「実はな──」


「異世界転移して8年過ごした後に嫌気がさしたから帰ってきたでござるか!? それも子連れで──」

「ああ、奇跡的に帰って来れたんだ──」

「デゥフフ── 石山氏──」

 中西が一瞬口を閉じた。

「これ── かなりマズイでござる。見たところまだ子供のようでござるし、それに住民票とか保険とか教育とかどうするでござるか?」

「それがどうにかならないかと──」

「デゥフ── なんとかと言われてもな── 多分、情報を誤魔化して手続きする以外ないでござるよ。何か対策は練るでござるが──」

「頼むわ──」

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異の世界から @nishiyoshi

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