第2話
「失礼します」
領兵団の執務室をノックして部屋に入ると、隊長殿と同僚の魔法使い、ジェーンが居ました。
「お館様の誘導を完了。現在の距離は135.76。南西の庭の距離と一致すると臣は報告します」
一番身近な障害として真っ先に拘束された隊長殿は、ぐるぐる巻きにされ床に転がされたままもがいていましたが、それを聞いてがくりと肩を落としました。おそらく、隊長が想定していた最大戦力がもう当てにならないことを理解したからでしょう。
「エリクスさんとの距離は?」
「現在の距離は17253.2。目的地への直線距離と一致することを臣は確認しました」
ジェーンに質問されたので、改めて距離を測定。お館様が警戒態勢の変更をしないままダッシュしていったので、各種の情報制限は解除されたままでした。
それはつまり。
「じゃあ、一応確認しておきましょう? そうすれば隊長も完全に諦めるでしょうし、私たちだって役得をもらっていいくらいの働きはしたはずだもの」
「伯爵領軍隊長オグの立ち会いを確認。伯爵領軍所属魔法使い、ジェーンの立ち会いを確認。占術起動」
上司である隊長殿の立ち会いと、同僚の魔法使いの手助けで、さっきと同じ魔法を発動できると言うことです。
「目標。エリクスの現在位置の捜索。条件:距離17000以上18000未満。条件:同行者有り。条件:オーレナングの森の内部。条件。・・・・・・」
様々な条件式を追加し、成立の難易度を上げていきます。お館様のゴリ押しで強引に成立させた前回とは違い、様々な拘束条件を乗り越えながら術式を研ぎ澄ましていく正統派の使い方です。
「条件設定終了。エリクスの居場所を求める」
その言葉と同時に水鏡に浮かんだのは、さきほどとは違って鮮明なエリクス様の姿でした。そして花畑の中に立つ、ユミカ様の姿でした。
これこそが、臣の研究成果。恋占いや失せ物探しといったお遊びにしか使えないとされていた占術を、運用でもっと詳細な情報を得ることが出来るのではないかと改良を続けた結果生まれた、対象の詳細情報を引き抜くための魔法です。そして同時に、同じ魔法を敵に使われたときに情報を攪乱するための手段を駆使して、術の対象をねじ曲げた結果でもあります。
今頃お館様は、身代わりの護呪符を持って庭園を巡回していた領兵を見つけ、そうとは気付かずに一緒にエリクス様を探していることでしょう。
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日が沈む前の、咲き乱れる花の中で立つお二方。それを確認し、そのまま占術を終了させました。
さすがにお館様でも、もう間に合わないでしょう。
エイミーちゃんを含むヘッセリンク女性陣全員と、一部を除いた領兵達を動員してお膳立てされた告白劇は、成功裏に終わりそうでした。
苦労はしましたが、ユミカ様とエリクス様の幸せを願ってやみません。
そしてなにより。
占い師は恋を相談されたなら、その思いを届ける手伝いをしたいものだと、臣は愚考するからです。
家臣に恵まれた転生貴族の幸せな日常。/未来の出来事1 日和 @hiyorin-0018
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