第7話

会場は青々とした芝生が驚くほど広がっていた。東京ドーム3個分ぐらい?4個か?どっちにしてもだだっ広いってことだ。

入場ゲートを通過して、その入り口から右手に進むとステージが2個ほどある。

2つのバンドが交互にステージに立つ。これで時短になるのだ。機材交換の時間リスクが格段に改善される。その分関係者が単純計算で倍だ。

反対側には救護テントや屋台テント、それぞれ個人でテント張りたかったら張れるスペースがある。多くの参加者が長丁場になるので簡易テントを張るのだ。休憩したり、食事したり。

今、俺は俺たちのテント前に腰を下ろしている。尚惟ショウイ壽生ジュキは入場ゲートまで裕太さんを迎えにいった。雅人先輩が同じ空間にいるってのは、


ヤバいよな、やっぱ。


二美子さんはテントの中で休んでいる。

1キロは何とか歩いたが、入口ゲートまで来て、真っ白な顔になっていた。本人は、え?って顔してたけど、俺たち3人は、きっと同じこと考えたんだと思う。

<消えそう>って。

透明になっていってる途中なんじゃないかってふと感じた。

「二美子さん、貧血みたくなってる」

俺がいうと尚惟が振り返り「え?」って顔になる。壽生も彼女を見て眉を潜める。血の気が引いてるのだから、そりゃ驚く。

「え?ほんと?白くなってる?やだな…でもふらふらしないけど」

二美子さんはほんとに気づいてない感じだった。前の人が流れたので、普通に歩みを進める為、一歩前に進もうとしたのだが、動いたのは二美子さん以外で、二美子さんの上体はスーッと下へ沈んだ。たまたま横にいた俺が腕を出したから受け止められたが、そうでなかったら彼女は倒れていただろう。

「おい!」

「あ……、あ、ごめん!こけた」

フフッと笑って、「ありがとう」というと何事もなかったかのように前へ進んだ。

普段なら、おい~って、ドジやな~って、笑えたのに今回は何だか脳内で警報がなった気がした。長い距離を歩いてきて間もない。なのに、あんなに体って簡単に冷えるのか?

触れた体温が低かった気がしたのだ。

オレは、彼女のちょっと後ろを維持しつつ前へ進み、ゲートを通過した。

気のせいか?二美子さん…ちょっと変…?

違和感があったのだ。歩いているときもそうだった。なぜか早く休ませようと焦った。

何しろ広い空き地だ。テントスペースまでも結構あった。

「うわー!すごい!広い!キレイ!青い!」

テンションの上がっている彼女を見て、気のせいかとも思ったが……こういう時の俺のセンサーの感度はすこぶるよい。安心できなかった。

「ねえ」

「ん?」

「着いたら話があるって言ってたじゃん」

少し間が出来る。

「え?あ、うん」

「それ、なに?」

単細胞な聞き方だが、うまい聞き方も知らないので、直球だった。

「俺も気になってる」

尚惟が乗っかってくるとは。

少し驚いた。尚惟は相手を思いやれる。今は話したくないかも、ということも考慮にいれてくれる。ショウも二美子さんが何か変だと感じてるんだと確信した。

歩く速度は一定で止まることなく、前に進んでいる二美子。俺、尚惟、壽生はその後ろを少し遅れた感じでついていく。

「……うん。だよね」

二美子の顔が見えないため、どんな表情でいるのかがこちらにはわからない。

「こんなに広いってすごいね~」



「生まれて始めてだよ、こういう冒険」

「フェスが?」

「うん」

「冒険って、まあ、あの兄貴だから分かるけど」

「ありがとう。誘ってくれて、ほんとに嬉しい」


やっぱ変だ……


「二美子さん、話ってさあ……」

そこからはちょっとしたドラマのワンシーンだった。ゆっくりと足から崩れていく彼女に、不覚にも現実とは思うことが出来ず、ただ、3人は反射的に駆け寄り、地面との衝突は避けられた。

「おいっ!」

見えた顔は真っ白く、目が開いてない。焦ったのは俺たちだ。

「ちょっ!具合悪いなら言えって!」

「…………しんどいかも」

「遅えよ!」


意識がある!


「ショウ、ジュキ、救急テントまで運ぼう」


そうして、救急テントまで運んで、休ませている間に俺と壽生でテントを張った。

そうしてると、尚惟と二美子さんが来て、今に至るってことだ。

貧血だと言った。今回はとも言った。

今回は?……引っ掛かりすぎか?


ごとっ……


テント内で物音がした。

「二美子さん?起きた?」

返事がない。

「……ごめん、二美子さん、入るね」

テントに入ると苦しんでいる二美子がいた。

「おいおいおい……」

何なんだ?この状況は!

「二美子さん?二美子さんって!どっかいたいの?」

滑り込むようにそばによると、小さい声が耳にはいる。

「え、何?」

「……リュックの……よ……くす……が……」


え、……くす……くす……


「薬か!」

二美子のリュックを引き寄せる。

「ごめん!」

リュックを開けて中を探る。薬だったらすぐ飲めるように俺なら……サイドだよな。

サイドポケットを探ると

「これ……」

薬ストッカーが……3つもある。

「二美子さん!どれなん?何色?」

茶色、白、赤

出した3つの薬入れの赤いやつに『発作時』

と書いてあった。


発作……?


「あ……あ……」

「あ、赤だな」

赤の薬入れから1錠出すと二美子の口にいれる。


これでいいのか?いいのか!?


二美子は眉を寄せて顔をしかめたまま、胸のところをギュッと掴み、苦しそうな呻き声を漏らしていた。

輝礼は二美子さんの体を半身にして、自分側に向けて横になるようにし、背中をゆっくりとさすった。息使いが少しずつ楽になり、顔色も戻ってきつつあるようだった。眉間のシワがほどけ、握りしめていた手が緩んでいた。

「にみさん?」

恐る恐る声をかけてみる。

「……ありがと、……アキラくん」

小さい声だが、反応があった。

「にみさん!だいじょぶか?」

「……ご…ごめんね、」

「どっか痛い?胸おさえてたけど、痛いのか?」

「……ちょっと、まって…ね……」

「え、え、にみさん?にみさん……!」

一瞬焦ったがどうやら状態は落ち着いたようだ。息づかいが安定している。

力が一気に抜けた。


落ち着け俺……。


深呼吸をしたあと自分のバックからバスタオルを出して彼女にかける。

「あ……」

彼女にタオルをかけるとき、自分の手が震えていることに気づいた。

怖かった……、まじで


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