エピローグ

エピローグ

 ゲルトが五歳の頃、ごろりと転がった春の草原で、リアと昼寝をしたことがある。


 太陽がぽかぽかと温かくて、花と草と土の匂いの入り混じる寝床はとても心地良かった。

 寝息が聞こえ、ふいに隣を見れば、リアがすやすやと可愛らしい寝息を立てて眠っていた。

 ほんの出来心だった。

 リアのふっくりした桜色の唇に、自分の唇を押し当てた。

 こつんとぶつかって、ただそれだけだった。

 



 ゲルトが七歳の時、リアが響子だと知ってから、ゲルトは木漏れ日の下で、眠るリアの唇を奪った。


(清らかでないと聖女にはなれない。口づけも禁止だって聞いた。だから——)


 口づけをすれば、リアの力は失われ、リアは聖女にならなくて済む。

 ずっとこの村で、ゲルトと共にいてくれる。

 だが、その期待は裏切られた。

 水清めの力は失われなかった。


 


 それからというもの、何度したら清らかさは失われるのかと確かめるためと自分を偽り、眠るリアに何度も口づけた。

 しかし、何度しようとも、リアの清らかさはそのままだった。


(なら、いくら口づけしたって問題ないじゃないか。他のことが許されないなら、せめて口づけだけは許してほしい)


 そうして、ゲルトはリアの知らぬところで、彼女の唇を奪い続けた。

 それはたまらなく甘美で、魅惑的だった。


 けれど——


 顔を真っ赤にして、紫水晶のような瞳を潤ませるリアに口づける方が、何倍も、何百倍も、ゲルトの心を熱くする。


「そのうちリアからもしてくれるよな?」


「馬鹿!」


 湯気の出そうなリアを抱き締めて、ゲルトは思う。


(好きだよ。ずっと。これからだって。永遠に。君だけを、想い続けるから)

 

 夏は苦手だ。暑いのは嫌いだ。だけれど、リアの熱い体温だけはひどく愛おしい。

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聖女は過保護な聖騎士に溺愛される 雨宮こるり @maicodori

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