第55話 ホムラの修行
勇の指導のもとに書かれた読書感想文を提出してから、王子は師匠の小説世界に耽っていた。
王子の部屋は、一陣の風とともに異世界の草原の中に変わり果てていった。王子の目の前には、壮大な景色が広がり、鮮やかな色彩の異世界が彼を包み込んだ。
勇者となるべく、騎士の修行に身を捧げる主人公の物語の中に。その物語では、勇者の修行には困難が待ち受けている。彼は武闘家と共に、剣の技を磨き、魔法の力を身につけるために様々な試練に立ち向かう。時には仲間との絆や友情を深め、時には孤独と闘いながら、成長していく姿が描かれる。その物語に没頭し、勇者の成長や困難を共に乗り越える喜びを味わう。心は勇気と希望で満ち溢れ、騎士の道を歩む勇者の一員として、新たな冒険への旅立ちを心待ちにする。
異世界戦士の朝は早い。夜が明け切らぬ前に、ヨナは誰もいない闘技場にこもった。夜はすることがないので早く眠る。だからホムラも以前ほど早起きも苦にはならない。
ラウンジの入り口を、兵士が見張っていた。
「誰も近づけないでくれ」と魔道士は言った。
城内には常に寝ずの番がいる。現代の日本に比べればと、一般的な町人の活動開始時間も早い。完全に人目を忍ぶという事はこの城砦都市の中では難しいことだった。
「了解です」
この日より、いよいよホムラの能力開発の訓練に入った。
まずは準備体操がてらの、演武。背筋を伸ばし緩やかな挙動で何度もこぶしを突き出す。
「太極拳みたいね」
「内から沸き上がる力を解放するには、体の中の気の流れをコントロールすることが大事です。力の源がどこにあるのか、どんな経路をたどっているのか探します」
「座禅とか組んだほうがいいんじゃないの?」
「肉体の鍛錬で見つからないものが、精神修養で見つかることがある。だけど、素人には心と同時に体を動かしたほうが理解が早いです。さぁ、おれの動きに続いて」
「はい」
ホムラは足を開いて腰を落とし、半身をひねった。朝日に向かって足の向きを垂直に、右肩を前に向けながら、前かがみになる。
「あごを引いて、腸はらわたに力を込める。力をイメージして、このように」
両手でバレーボールを抱えるように、空間を作る。
「気の塊をイメージして。見えないボールがあるように感じに。ここにため込んだ力を前に突き出すイメージで放つ」
「う、うん(え、これって……)」
ホムラは、今自分のしている構えが、何か見覚えのある気がした。
この情景を読んでいる王子は思った。
「かめはめ波かな?」
ホムラの特訓は続く。
ヨナ以外の兵士が教官を務めることもあった。
「こうして武器をふりまわしているだけでも度胸がつくだろう。そろそろ人を殺す覚悟もできたのではないかな」
兵士長は多くは期待しないと言っていたが、ホムラの剣筋もみるみる無駄のない動きになってきた。
「いいぞ、ブレがなくなってきた」
短時間での習得のため、ホムラの筋力と運動神経でできることとできないことを、計算された訓練だった。
兵士長と魔導師とヨナが交互に指導する。
もしも小学生が芥川賞を受賞したら @jnjdngic
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