第2話 ローズね、少し考えてみようと思うの。
あれから1ヶ月。
妹は変わってしまった部分と同じ部分が混在している、そうした部分を確認する度、何とも言えない気持ちになってしまう。
―――以前とは違うけれど、根本は何も変わっていない筈ですよ。
本人の、その言葉を鵜呑みには出来無い。
もし鵜呑みにしてしまえば、こんなにものんびりと暮らしたがっていた子に、大きな負担を強いていた事を認めなければいけなくなってしまう。
パン屋に行っては半日作業を眺めていたり、かと言えば黙々と刺繍を始めたり、紅茶を淹れる練習の為に人に声を掛け家に招いたり。
雨の日には鼻歌を歌いながら料理をし、本を読んで、早くに就寝する。
そうして偶に早起きし過ぎると、朝焼けを眺め続けたかと思うと、黙々と日記に文字を書き込む。
確かに他の貴族より、平民よりも何かをする時間は遥かに少ない。
ただ、何も考えていないワケでは無い。
不意に質問して来る事も有るし、急に謝る事も有る。
内側での変化が表に出る事は殆ど無いけれど、確かに彼女の中では何かが起きている。
それが良い変化なのか、悪い変化なのか。
《溜息を3回確認したら尋ねる約束だから、聞かせて貰えるかな?》
「あぁ、すいません、お兄様の結婚の事です」
《えっ?》
「もう良いお年なんですし、選り好みしていては本格的に行き遅れに、と言うかもう行き遅れでは?」
《いや、まぁ、男は少し年がいってても良いんだよ。寧ろ王族や平民の結婚が早過ぎる、早い者勝ちとはならないのが貴族だからね》
「それにしても妹と、それこそ異母でも無い妹とずっと一緒は、流石に不味いのでは?」
《今そこかい?》
「甘えるにも加減が必要かな、と。普通、一般的な貴族の令嬢なら」
《もう例外になってしまっているんだから、気にしなくて良いんだよ》
「あの、それは無理です。あのお2人がどうなってるか、教えて貰っても良いですか?」
《ローズ》
「気にしない様に、忘れる努力もしたんですが。激情から相手の予想とは違う行動を取った事で、良い方と悪い方、両方に行ってしまったので、知って罪悪感を減らしたいんです」
《彼は監視役付きで学園へ、彼女は王宮の監視下で謹慎を継続、関係者も監視付きで謹慎のまま。彼女は多分、永遠に軟禁され続けるだろうね》
「だからこそ、王に言わなかったのでは?」
《だとしても他にやり方が有った筈だよ。それこそ君や彼にだけでも、世迷い言だとされても全て事実を言うべきだった、そうした夢見の存在を国は許容するだろう事も理解しているべきだった。例え本人に言わないにしても、彼はせめて私に言えば良かった。年上に言わずに重要な事を決断した、それは子供のする事では無いんだよ》
「どう証明したら良いのか分からないんですが、彼女を責める気は全く無いので、どうか彼女を追い詰める事は無い様に、お願いは出来ませんか?」
《ローズ、君も信じているのかい?国が滅ぶ、と》
「いえ、1枚岩では無いので大丈夫かと、そこは覚えてますし。信じてますから」
私が軟禁状態、謹慎処分と言う名の監視体制の下で過ごす事になったのは、私が信じなかったから。
この世界を、国を、周りを。
見下げていたワケでも無い、人となりを改めて知っても尚、ただ信じられなかった。
貴族と言っても愚かな者も居るだろう、と。
それこそレオン殿下が私に靡く素振りなんかしなければ。
いえ、私のせい、私が愚かで狭量だから。
なのにどうしてもこの体は、この脳は、この心は直ぐに人のせいにしようとしてしまう。
抗っても抗っても、油断するとつい、人のせいに。
前の私には不思議だった事が、今私を蝕む、私を苦しめる。
コレが強制力なんだろうか。
なら早く死にたい、こんな思考回路には反吐が出る。
けど、もしかしたら違う事が原因で世界や国が滅ぶかも知れない。
書かないと、全てを早く書かないと。
なのに。
《クリス殿下、まだ休憩していないとダメですか》
『仮に、もし、本当に貴女の言う通りになるとして。貴女はどう思いますか』
《また、その話しですか。私に考える頭は無いんです、愚かな私に聞かないで下さい、愚かな答えしか出ないと答えた筈です》
『だからですよ、愚かな事でも聞く必要が我々には有るんです。悪しき見本は悪しき見本として知る必要が有る、良い見本だけで人が育つには限界が有るので』
《私は、本来は人のせいにする者が大嫌いだった、なのにこの体は殿下が靡く様な事をしたからだと思ってしまうんです。でなければ彼女は顔を焼かずに済んだのに、私はココまで追い詰められなかったのにと、そう思ってしまうんです》
『それについては僕も同意しますよ、貴女から情報を引き出すにしても周りへの根回しがあまりに悪かった、信頼しなかった。兄弟を、家族を、大人や婚約者を信じなかった。その点で彼は失敗した、そこを貴女が責めても問題無いと思いますよ、靡かなかったら手口を変えてたとハッキリ仰って、詳しい手立てまで書き記しているんですから』
《でも、夢見に無い行動を彼女はした。私の浅い考えに意味は、意味を勝手に付けるならどうぞ、それも書きますから》
『いや、記すのは夢見の内容だけで構わないよ、悪しき見本はコチラで記録するから』
《分かりました》
私が心配する必要も無い位に、ココは強固な世界、国だった。
表面しか見ていなかったし、殿下が靡いた時、ガッカリしたのと同時に喜びも感じた。
だからこそ私は私が大嫌いだ、こんな脳で、体で一生を過ごすなら死んだ方がマシ。
『間違い無く、君の愚策のせいだよ』
『すま』
『嘆願が来たんだ、
ローズに信じさせる為と言えど、俺がリリー嬢に靡いた様な態度をしてしまったからこそ、リリー嬢の不安を煽ってしまった。
俺が愚かだから。
だからローズは。
『ローズの心が離れたのは』
『そもそも本当に気持ちが有ったんだろうかね?僕なら嫌だよ、出来るからって次々に教育ばかりを詰め込まれ、子供らしく楽しいと思える様な時間も無い。そんな人生を強いる国や君や王を支えて貰える、と本気で、そう思ってたからさせてたんだよね、王妃教育』
『確かに最初はそう思っていた、がだ止めたんだ、それこそ彼女の家族も』
『勉強したがってるからさせてただけで、俺は悪くない、勝手に思い詰められただけ。それ好意を利用する詐欺師も同じ事を言うんだよね、知ってた?』
『それでも本当に、彼女は止まらなかったんだ』
『今回の事で思ったんだけど、もしかしたら同じだったのかも知れないよ。自分の死を回避する為に必死で勉強をしていたのかも知れない、けれども全てを悟って顔を焼いて、結果的に悲劇を回避出来た。悲劇って何だと思う?僕は裏切りだと思う、過剰な教育を防ぐ為、不安を解消させる為に君は何をしたのさ。どうせ普通の事しかして無かったんでしょうよ』
『知ってるだろう、勉強させて貰ってる分、清貧であらねばならないと贈り物すら拒絶されていたんだ』
『で、こうなった。優秀過ぎると潰れ易いと知ってて、顔を焼かせる様な流れを許し、記憶まで無くさせた』
『それでも、本当に』
『予言を時系列で読ませて貰ってるけど、コレもう根本的に全く違う世界の話しだよね。ローズが死ぬかも知れない、国が滅びるかも知れないって、本気で今も思ってるの?』
要点だけ聞いている時は確かに、と。
だが彼女が書いた内容を全て読むと。
『いや』
『それこそ本当に惑わされてたんじゃない?運命の番だとかの単語も有ったし、魅了されてた、とか』
『今も前も、リリー嬢には全く好意は無い』
『僕に胸を張って言われてもね。はぁ、じゃあね』
本当に、俺はなんて事を。
やっほー、悪役令嬢だけど顔を焼いたよー。 中谷 獏天 @2384645
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