やっほー、悪役令嬢だけど顔を焼いたよー。
中谷 獏天
第1話 ローズね、今、思い出したの。
「私には身に覚えが御座いません!ですが、お騒がせした事は謝罪致します、そして騒動を抑えられなかった罪の償いと身の潔白を示す為、顔を焼かせて頂きます!」
絶叫と悲鳴と人が焼ける臭い。
私、知らない。
こんなルート、知らない。
《レオン殿下、こんな》
『火を、火を消すんだ!!』
「私はー!何もしてないー!」
私、こんな、こんな事になるなんて。
―――悪役令嬢。
誰かがそう呟いた日から、じわじわと記憶が蘇っていた。
けれども非常に朧気で曖昧、そうハッキリと思い出せないまま、今まさに小部屋で少人数だけど断罪されている。
生憎と乙女ゲーをした事が無く、状況だとかを呑み込むまでに時間が掛かってしまったけど。
コレ私、悪役令嬢だコレ、と。
そう理解した頃には。
《あ、アナタは私を虐げた、嫉妬から》
『すまないがローズ、リリー嬢がこう言っている以上。君とは、婚約破棄だ』
あ、コレ、下手すると死ぬな。
そう思ったので。
「私には身に覚えが御座いません!ですが、お騒がせした事は謝罪致します、そして騒動を抑えられなかった罪の償いと身の潔白を示す為、顔を焼かせて頂きます!」
それからはまぁ、本当に何もしないで良かった。
火傷を負いながら小部屋から這い出して来た私を、教師が見付け、この件が表沙汰に。
当然大騒ぎになり、王族が本格的に調査に乗り出すと、直ぐに断罪の内容は冤罪と発覚。
レオン王太子は王族として品位を欠く行為を行った為、謹慎。
ヒロインだか聖女だかの女生徒も、謹慎。
王太子が婚約者である筈の令嬢を、顔を焼く程に追い詰めた、として王族は非難の嵐を何とかしようとしているらしい。
うん、コレは生き延びれるべな。
《ローズ、もう起き上がって良いのかい?》
私は、目も開けられない中で事の顛末だけを教えて貰っていた。
母だと名乗る優しい声の女性や、父と名乗る男性の声に励まされ、教えて貰っていた。
けど。
えっと。
んー、誰だこの人。
「すみません、どちら様で?」
《ぁあ、ショックのあまり記憶を失ってしまったんだね》
あぁ、うん、それはそう。
自分で焼いておいて何だけど、あまりの痛みに脳まで焼き切れたらしい。
前世の記憶を少し思い出したっぽいけど、ココの記憶は殆ど無い。
コレが私だ、と自覚は出来るけど。
何もかも、凄い違和感だわ。
「あの」
《あぁ、私は君の兄だよ。血は繋がって無いけど、君の兄のジルだ》
「そうなんですね、すみません、名前も思い出せなくて」
《そうだよね、レオン殿下とは幼い頃からの知り合い、そう忘れてしまうのも無理は無いよ》
凄い優しい兄じゃないですか。
あー、顔を焼くしか他に無いと思ってたけど、コレ間違えてしまったんだろうか。
「ごめんなさい、もう、顔を焼くしか無いと思って」
《そこなんだけど、詳しく良いかな?》
「詳しく?」
《焼くしかないと思った理由を教えてくれないかな?》
「えーっと」
先ず、身に覚えが無いにしてもどれだけ捏造されているかは不明な為、言い訳をしても言い逃れだ等と私刑や死刑が行われる事を恐れた。
次に、暗殺を避ける為、敢えて事を大きくした。
そして。
《被害者の立場だと示す為、だそうです》
「あんなに穏やかな子が、そこまで追い詰められていたなんて」
《はい、すみません、全く気付けず》
『常に見張るワケにもいかんだろう、しかもココまでの悪意を想定してはいなかった、が』
「王族が私的に断罪など、コレでは独裁国家も同じ、決して許してはいけませんわ」
『勿論だ』
何故か血の繋がらない母と妹のローズは似ていた、穏やかで大人しい。
けれども言う事はハッキリと言う子だし、良い子だ、あんなでっち上げの事件に一切関わる気も無い子だと言うのに。
《私も、殿下の廃嫡を進言すべきだと思います》
「そうね」
『あぁ、直訴してくる』
リリーの言う通りにしていれば、何も問題は無かった筈だった。
あの場で断罪すればローズが死ぬ事は無い、国も守れる、と。
だがリリ-は確かに言っていた。
こんなの知らない、と。
『レオン、双子と言えど全く意味が分からないよ。全く、何がしたかったんだか』
『すまないクリス、ローズと国の為だったんだ』
『本当かな、あの女に誑かされただけじゃない?』
『違うと言っても信じて貰えないかも知れないが、本当なんだ』
『全ては話してくれないんだ』
『コレは、王にしか言えない』
『そう』
本当に、ローズと国の為だったんだ。
『レオンから聞かせて貰ったが、この国が滅びるとは、誠か』
私が知ってるルートでは、全て、この国は滅んでいた。
1作目ではハッピーエンドを迎えた、けれども継続シナリオの2作目でメリバエンドだとかリアルに則した作品になって、賛否両論に。
そして3作目は1と2の男性側をプレイ出来るんだけど、どう足掻いても国が滅ぶ。
だって、公衆の面前での断罪と婚約破棄を許すだなんて、絶対にいずれは国が滅びるじゃないですか。
《私は、夢見で、何度も国が滅ぶ様を見ました。ですがローズ様が顔を焼く夢見は、無かったんです。ですので、もしかしたら、この国は滅びないのかも、知れません》
『夢見で、か』
《決して殿下や王、国家を揺るがす気は無かったんです、本当に》
『ならば、先ずは聖女と名乗るなら令嬢の顔を治せ、そして全てを記すまでココで拘束させて貰う』
《はい》
私、明らかに早まったかも知れない。
だって、いざ王宮内に捕まってみると、滅びる気がしないんだもの。
けど、でも。
ココまでしっかりしてるって分からなかったから。
《ごめんなさい》
「あ、いえ、誤解が解けたなら何よりです」
《でも、ごめんなさい、ココまで追い詰めるつもりは無かったの、本当に》
リリー嬢、ココまで、って事はそこそこ追い詰める気だったんだべな。
「あの、理想は、どの様な?」
《私、夢見で、この国が何回も滅ぶ夢を見たの。だから、せめてアナタは救おうと、外国に追放すれば、そこで、幸せになれる筈、だったから》
あー、コレ私、完全に余計な事をしてしまいましたか。
まさに時期尚早。
いや、でも、夢見て。
「あの、じゃあ、私が顔を焼く夢は?」
《無かったの、それこそココの悪い貴族に利用されて死刑になる、とか。でも、もう、その人達もとっくに居ないって、だから、夢見と全然違くて》
「でしたら、私が追い詰められ過ぎてしまった、弱過ぎたと言う事で」
《いえ、そこも、確かに私も何も知らない状態で、いきなり罪を背負わされそうになったら。きっと、多分、そう追い詰められてたかも知れないから》
凄い反省してる。
コレ、溺愛系義兄がとことん追い詰めた結果では、あの人王宮で働いてるし。
「あの、私の望み通り、痛みは消して貰いましたし。その、私、他国に行きますよ」
《けど、レオン殿下と》
「記憶に無いので大丈夫ですよ、頑張って王妃様して貰って大丈夫ですから」
《違うの、私、寧ろアナタのお兄さんが》
「関わり有りましたか?」
《ううん、夢見で、ずっと好きだったのを、諦めたけど、ぅう》
あ、コレ兄上を説得すべきですかね。
隠れて聞いてますし。
うん、先ずは兄上から。
「あの、お兄様」
《仮に、貴女の言う事を全て信じたとしても。どうして直ぐに治してやらなかったんですか》
確かに。
うーん、手強い。
《ごめんなさい、あまりにも想定外で、気が動転してしまって》
「あの、お兄様、私も逆なら大慌てなので、どうか穏便に」
《ローズ、優しさも大切だけれど、罪は罪としてしっかり向き合って貰う事も大切なんだよ。それに、どうして完全に治して貰って無いのかな?》
「それも理由が有るんです、私なりに」
《勿論、話してくれるよね》
あ、圧が凄い。
「もう、記憶も無いので王妃は無理ですが。寧ろ、利用されない為にもこのままの方が良いかと。静かに暮らしたいんです、色々と学び直さないといけませんし、落ち着いてから改めて治そうかな、と」
《レオン殿下の事は、もう良いのかい?》
「はい、そもそも記憶に無いので未練も何も無いですから」
《ごめんなさい》
「あ、いえ、痛みは無いですし。ね、うん、私の為にもどうか彼女を許して下さい、そしてレオン殿下も」
妹は優し過ぎる。
そう思ったけれども、全ては国を思っての事なのだろう。
妹は王を信じ、王が信じたリリー嬢をも信じた。
なら私は、妹を信じよう。
《今は妹を信じる、けれど今後は君と殿下の動き次第では、寧ろ君達のせいで国が本当に滅びる事になる。そこは理解しているかな》
《はい》
「お兄様、早速出国の手配をお願いします」
《分かった、直ぐに手配するよ》
こんな形で、こんな風に娘を送り出す事になるとは。
『体に気をつけるのだよ』
「しっかり栄養を摂りなさい、好き嫌いも遠慮もしない様に。それから変な」
《私が付いて行きますから大丈夫ですよ、言い聞かせますし、見張りますから》
「全ての記憶が無くなったワケでは無いので心配しないで下さい」
『手紙を楽しみにしているよ』
「無理をしてはダメよ」
「はい」
王妃教育の事も、レオン殿下との事も、私達との思い出も消えてしまった。
だが忌まわしい思い出の有る場所より、新しい場所で刺激を得ればあるいは、と。
一縷の望みに賭け、娘を手放す事に。
こんな事になると知っていたら、王太子との婚約など。
「アナタ、そう思い詰めては」
『すまない、だが、どうしても後悔してしまう。王太子の婚約者になどさせなければ、と』
「今は前を向きましょう、あの子はきっと喜びませんよ」
『あぁ、そうだな』
文字は読めるから助かった。
けどアレよね、何で記憶がゴッソリ無いんだろうか。
火傷の痛みか、思い出したショックで前の記憶が消えた?
あ、アレか、だから物語だと人格が変わるのか。
で、私はじんわり思い出して融合する筈が、焼いた衝撃で吹き飛んだとか。
けどコレはあくまでも仮定。
居ないかなぁ、転生者とか転移者。
《ローズ?もう馬車に飽きたのかな?》
「あ、いえ……実は前の事で少し悩んでまして。私、レオン殿下を好きだったのかな、と」
あらコレ、マズい事を聞いてしまった?
《国を支える者として尊敬している、と。好きになるのは、結婚してからだろう、と》
あー、そうそう、その感じはほんわり覚えてる。
今でもそんな感じだけど、前と違うのは面倒だなってのが9割って事、絶対に王妃とか無理。
前と違う部分が面倒くさがりって、コレ改悪ですよねぇ。
セオリー的には改善されるべきなのに。
「すみません、お支えする甲斐性も無く」
《良いんだよ、あんな思いをしたんだ、全てが消し飛んでも無理は無いよ》
兄ぐう聖。
なんだココ、見た感じは中世とかなのに、魔法が有るにしても成熟度が高過ぎる気がする。
「すみませんがお兄様、向かっている国の解説を頂いても?」
《ウチの国の事は覚えてるかな?》
「いえ」
《じゃあウチの国から始めよう》
私達の所属する国はユーロスラビア連合国の1つ、クロロチア王国、地図を見るからにも欧州。
コレ、憧れのクロアチアに住んでたのか、勿体無い。
そして向かう先は。
「
『位置が中央なだけで中央政権では無いからね、各国の共有地、緩衝地帯。各国の王妃候補が集まり教養を磨き合っている女学院が有るんだよ』
あ、そこ、絶対に行きたくない。
絶対に面倒そう。
「何故、私がそんな国に」
《覚えていないだろうけど。君はね、万が一にも王妃候補から外れる様な何かが有ったら、試金石としてくれと私達に言っていたんだよ》
そう言われると、確かに言った様な、気がしなくもない。
が。
「前の私は、それでも役に立とうとしていたんですね」
《前の事は気にしないで、今の君が好きな様にして良いんだよ》
いや、それだと。
「穏やかに過ごしたいんですが、傍から見れば怠惰に見える程に何もしないかと」
《構わないよ。人の心は簡単に壊れる、君の心が壊れたとは言わないけれど、壊れるには十分だった。前とは違っていても構わない、君がしたい様にして良いんだよ》
記憶が無いクセ、にハッキリと分かる事が有る。
以前の私と今の私に対した差は無い、望みや欲求は確かに変化したけれど、私はローズ。
前世の記憶を持つローズ・バレンタイン。
でも証明が難しい。
記憶が無いなりに、無い事をどう証明出来すべか。
うん、思い付くまでのんびりしておこう。
「お言葉に全力で甘えさせて頂きます」
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