不香の花
いつもと同じ帰り道
コンビニの袋を片手
夜の帳が下り始めた街を
静かに歩く
レポートにバイトに家事
毎日同じ日々の繰り返し
思わず吐いた息は白かった
そこにふと、白い光が舞い降りた
なんだろうと空を見る
少し暗い空に、白い斑点
雪だ
あの冬、君と見たのと同じ雪だ
『雪じゃないよ。』
「そうなの?」
あの日の言葉を口遊む
『うん、これはね、風花。風に花って書いて風花。』
「へぇ、じゃあ音読みしたら君の名前だ。」
『ほんとだ。縁起がいいね。』
君は頬を紅くしてはにかんだ
夜風に風花が舞う
『寒いね。』
「冬だから。」
『もう、ドラマチックじゃないなぁ』
「悪かったな。」
『……来年も……こうしていられるのかな。』
「……もちろん。」
『なら、安心だね……』
君はそう言って赤くなった手をさすった
『ねぇ、手、あっためてよ。』
「……いいよ。」
君の手を握ろうとする
でも、その手は空を切り
右手を見ても何もなかった
風花を吐き出す暗い黒い空を睨みつける
溶けた風花は頬を流れる
思い出を運んだ風花は
君のあの香りだけを伝えてはくれない
青春の一ページ 短夜 @abelia_ar
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