羨望

僕はピアノが上手い

自分で言うのも変だけど、そうだと思う

合唱大会

毎年のようにやってくるこの行事に少しうんざりしていた

だって今年も僕の意志など関係なく伴奏者が指定席だ

実を言えば、やりたくなんかない

でも、やりたいパートがある訳ではないし、何より頼まれたら断れない

断るのが少しだけ、怖いんだ

自分自身、心底うんざりしてしまう

でも、今は伴奏者が楽しみだった

毎年、僕を縛り付けるあのピアノが、少しだけ待ち遠しかった

それは君が僕と違ったから


同じクラスの君は確かな才能の持ち主だった

君の歌声は水みたいに透き通っていて、綺麗で、不思議だった

先生もクラスメイトも、何より僕自身も聴き入ってしまう

だから、君はソプラノを選ぶと思ってた

でも違った

「私、指揮者がいいです。」

君ははっきりそう言ったんだ

どうして才能を持っていながら、頼まれていながら、やらないのか

僕には理解し難かった

でも、僕はかっこいいと思ってしまった

憧れてしまった

嬉しいと思ってしまった

それは、きっと、君を


幕が上がる

刹那

指揮者と、君と目が合う

君の目は輝いていた

そんな君と息が揃う

それが何より嬉しいんだ

あぁ

楽しい

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