第6話
「対象の動作、完全停止を確認。スリープモードに移行しています」
「そう、それなら今のうちにベットに移しておきましょう」
私は耳に着けたイヤホンから流れる自動メッセージを受け取り、健介を抱えて彼の部屋に向かう。
「ようやく……ようやくだわ!! 長かった、十五年もかけてじっくりと仕込んだ甲斐がある」
私はメイドロイドのメイ、人間としての名は
三歳の頃には名門大学の試験を突破し五歳で海外の大学で博士として迎えられた。
十歳になるころには、おおよそ頭脳で私に敵う人間などいなくなっていた。
そんな私だが、一つだけ足りないものがある。
彼氏だ。
私を一番に愛して欲しいし、話にも付いてきて欲しい。
そして最後まで一緒にいて欲しい。
私に比類するくらい。
その野望は八歳の頃からスタートした。
まず、有り余る財力を使い、家庭を二つ構築した。
私にどっぷりハマってもらうための舞台装置だ。
彼には一度深く傷心してもらい、私から離れられなくさせる。
私は狂ったようにその研究に没頭した。
その副産物でいくつか成果を上げたが、そんなことはどうでもいい。
お金には、なったので存分に使わせてもらった。
そこからはスムーズだった。
二つの家庭で両親を作り、幼馴染も設定した。
後は彼を作るだけ。
でも人間じゃダメ、いつ死ぬか分からないし、何より私に並び立てるだけの頭脳があるか分からない。
なら作ればいいじゃない。
私にふさわしい彼氏を。
でも既存のアンドロイドではだめだ。
そんなものはただの道具だ。
世間では当たり前のようにアンドロイドを人間として扱っているが、私は幼心に変だと思っていた。
でもアンドロイドは頑丈で、壊れない。
なら人間だと思い込んだアンドロイドを作ってしまえばいい
本来、アンドロイドはその自覚をして、規範となる行動をとるようにプログラムされている。
そんなもの私の手にかかれば突破出来る。
そうだな、私の予定した以外の女に接触させるのも嫌だし、顔は不細工にしてコミュ障にしよう。他にも―――
私は出来るだけの理想の彼を作った。
それは単に記憶を作るだけでは意味がない。
現実に登場して、何度も接することで愛情が湧くのだ。
記憶を入れて、はいこれが君の彼ですよ~なんて何にも楽しくない。
私は見たいのだ。私に縋りつく彼の姿を。
そして自分の愚かさに気づかない哀れなアンドロイドを。
私はどこかおかしくなってしまったのかもしれない。
初めはただ彼氏が欲しかっただけなのに。
アンドロイドなんてただの機械だと思っていたのに。
でも成長していく彼を監視カメラで見つめる日々は楽しかった。
ああ、あんなに粗暴に、そして幼馴染に嵌っていく。
初めの方はそうなるように設定した。
でもその後の行動は自立した彼の意思だ。
私はその結果に満足しながら、接触する機会を待った。
そしてついに、彼が十歳になるころ、メイドロイドとして彼の家庭に入り込むことが出来た。
初めは私に忌避感を抱いていた。
当然だ、そう設定したから
でも何度も話すうちに徐々にその警戒は解かれていった。
だってそうでしょう、貴方は人間が好きでアンドロイドが嫌いなアンドロイドなのだから。
でもどれだけ待ってもその一線を超えることはなかった。
でもいいの、まだ待てる。その為に安藤を送り込んだ。
安藤には礼子を堕とすように積極的に動くようにプログラムしてある。
もちろん私お手製で本人には自覚はない。
しばらくして、彼が落ち込んで帰って来た。
事の一部始終は見ている。この近辺のカメラはすべて網羅している。
ついに! ついにきた!!
私は笑みを悟られないように、彼に話しかける。
後は予想以上だった。
植え付けた前世の記憶まで話すほど追い詰められていた。
あああああ! 堪らない! これが愛情ってものなのかしら。
私は今まで誰にも抱くことのなかった感情に震えている。
それをおくにびも出さず、優しく彼を受け入れる。
そして幾度と言葉を交わすと、首元にある彼の電源を落とした。
完璧だわ。これでもう私が孤独に苛まされることはない!
私も幸せ、彼も幸せ! 皆ハッピーエンドの素晴らしい結果。
待っててね、充電を終えたら、目一杯甘やかしてあげる。
貴方が他の女に気を取られないように。
そんなことも知らずにベットの上で眠る私のかわいい人
大丈夫、最後まで私が一緒にいてあげる。
例えこの体を機械と同じにしてでも。
俺が幼馴染に振られて慰めてもらうだけの話 蜂谷 @derutas
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