第2話
「声をって……」
『セノさんが、ですか?』
『はい。前にもお話した通り、私は自分でもアフレコしながら本を読む事があるんです。だから、微力ながらお力になれると思います。もちろん、ご迷惑なら良いんですが……』
『迷惑なんて……中々こんな事は誰かに頼めないですから是非お願いします。もしイメージと違うタイプの声でもまた違った道が拓けると思いますしね』
『わかりました。それじゃあ少しお時間を貰いますね』
『はい』
そう答えた後、セノさんとの会話は一時的に終わり、俺は椅子の背もたれに再び体重を預けた。
「はあ……セノさんにまで迷惑をかける事になるとは思わなかったな。おまけにちょっと気持ち悪い面を見せちゃったし」
セノさんの気持ちはもちろん嬉しいし、さっき言った事に嘘はない。だからこそ、申し訳ないのだ。
「……そういえば、これでセノさんの声を初めて聞く事になるんだよな。どんな声なんだろう……」
俺は小説を書いてはいても声優さんや俳優さんには明るくない。だから、こういう人っぽい声だという答え方は出来ないが、そんな俺でも知っている声優さんが一人いる。
その人の名前は
そんなYUKAさんを知ったきっかけ、それは深夜にやっていたアニメだった。内容としては一般的に転生物と呼ばれる物で、深夜に適当にテレビをつけた時にやっていたのを観て、よくあるタイプの話だなと感じていた。
けれど、YUKAさんの声を聞いた瞬間、俺は自分の中を風が吹き抜けたような感覚に襲われた。YUKAさんがやっていたキャラクターはいわゆる悪役令嬢というものだったのだが、まだ高校生でありながらその凛とした声や堂々とした雰囲気に俺は圧倒され、あっという間にYUKAさんのファンになっていた。
それからというもの、俺が執筆を始めるきっかけになったアニメ好きな友人にYUKAさんについて聞いたりネットで他にYUKAさんが出演しているアニメなどがないかと調べたりするようになり、今ではYUKAさんが歌った曲をまとめたプレイリストを聞くのが日課になっている。
「これでYUKAさんみたいな声だったらどうしようかな……思わず喜んで今度こそ気分を悪くさせてしまうかもしれないし、とりあえず冷静に声を聞かせてもらおう」
頷きながら独り言ちていた時、画面に音声データとセノさんからのメッセージが表示された。
『とりあえず録ってみました。お気に召したら良いんですが……』
『ありがとうございます。それじゃあ早速聞いてみますね』
『はい』
俺は音声ファイルをクリックした。その瞬間、俺の中を風が吹き抜け、ハッとした時には俺は部屋の中じゃなく夕暮れの道の真ん中に立っていた。
「え……」
『良い夕焼けだね』
『……そうだな』
その声がした方では俺の作品の中のキャラクターである二人が歩いていて、セノさんがアフレコしたのが投稿したばかりの話のラストシーンなのだとすぐにわかった。
『あ、あのさ……』
『……なんだ?』
『えっと、その……』
『その前に俺から一つだけ良いか?』
『……なに?』
主人公の声は凛とした少年の声で俺が書いているイメージ通りの声だったが、ヒロインもまさにこの声だと断言出来る程の声だったため、俺はセノさんの実力に驚きながら二人の行く末を見守っていた。
『ずっと前から言おうと思ってた事がある。でも、臆病風に吹かれて言えなかった。そんな自分が情けなくてたまらない』
『……そんな事ない。君はいつだってしっかりとしてたよ。それで、言いたかった事って?』
『……お前がクラスメートに告白されてる姿を見て先を越されたと思って俺はスゴく悔しかったけど、それを断ってる姿を見て本当にホッとした。だから、もう他の奴に先を越されないように俺は伝えるよ。お前の事が好きで、お前と恋人になりたいって』
『……私も君の事が好き。小さい頃に出会ってからずっと好きだった。だから、こちらこそよろしくお願いします』
『……ああ、こちらこそよろしくな』
そう言って二人は幸せそうな顔をして静かに抱き合った。そしてその姿を見て心からホッとした後、俺の意識は急に引き戻されていった。
声、あてましょうか~自作小説のファンが人気声優で同級生だった~ 九戸政景 @2012712
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