声、あてましょうか~自作小説のファンが人気声優で同級生だった~

九戸政景

第1話

「……よし、これで完成だな」



 目の前にあるパソコンの画面を見ながら俺は独り言ちる。画面上には今書き上げたばかりの小説が表示されており、俺はそれを見ながら軽く推敲すいこうした。そして、誤字脱字などのチェックを終えると、満足感を味わいながら背もたれに体重を預けた。



「はあ……今回は思ったよりも苦戦したな。遂に主人公とヒロインがちゃんと心を通じ合わせて恋人同士になるところだったから仕方ないと言えば仕方ないけど」



 俺が書いているのは現代を舞台にしたラブコメで、正直プロに比べたら話の作りや語彙なんかが拙い方だと自分でも思う。


 それでも読んでくれる人はそれなりにいて、一話目からずっと追ってくれている人だっている程だ。そんな人達にはちゃんと感謝はしているし、これからもその人達の期待を裏切らないように頑張っていくつもりだ。



「さて、推敲も済んだからまずは投稿しに行くか」



 独り言ちた後、俺は文章をコピーし、使っているサイトを開いた。使ってるのはライターという一般の人でも作品を投稿出来るサイトであり、俺はここでは本名の柿川かきかわ李衣斗りいとを使ってリートという名前にしている。


 名前だけとは言え、本名をそのまま使うのは初めは抵抗があったが、それ以外には中々思い付かなかったため、この名前で行く事にしたのだった。



「えーと……この画面を開いて、と……」



 コピーした文章をペーストし、作品の投稿を終えた後、学校の課題に取り掛かり始めた。そして約一時間後、課題を完璧に終わらせたところで反響はどんな物か気になった俺はサイトを開きっぱなしにしていた画面をリロードした。すると、通知が幾つかあり、それを開くと投稿した作品への感想などが表示された。



「早速書いてくれた人が……って、この人は……」



 感想を書いてくれた人、それはセノさんだった。セノさんは俺が活動を始めた頃からずっと応援をしてくれている人で、自分から書く事はないようだけど、本を読むのは好きでたまにキャラクターに自分でアテレコもしているとSNSで繋がれた際に話してくれた。


 そしてセノさんはどうやら同じ学生で女の子らしく、容姿までは流石にわからないため、どんな人なのか想像するのがいつしか俺の楽しみになっていた。



「……今回も感想を書いてもらって本当に申し訳ないな。でも、セノさんの感想はただ良いところを書くだけじゃなく、こういうところを変えたら良いかもしれないっていうアドバイスも書いてあるから結構助かってるんだよな。指摘自体もかなり鋭いし」



 そこは読書家だからこそ出来る事なのかもしれない。そんな事を思いながら感想を読み終えた後、俺はそれに対して返信をした。



「えーと……“感想ありがとうございます。今回の指摘もとても勉強になりました。セノさんがやきもきしていた二人の恋が実った後のストーリーも楽しみにしていて下さい”と……」



 感想を書き終えた後、俺はいつも使っているSNSを開いた。すると、アカウントにはセノさんからのメッセージが来ており、俺はそれを開いた。



『リートさん、お疲れ様です。今回も本当に面白かったです!』

『ありがとうございます、セノさん。自分には恋の経験というのが全然無かったので書くのに苦労しましたけどね。恋なんて小学生に上がる前にしたっきりですし』

『そういえば、好きな子がいたんでしたっけ』

『はい。ただ、あの頃は恋というものを知らなかったので告白までは至らなかったんですが、今思えば告白までしておけば良かったのかなと。そうすれば、困る事も無かったのになぁと思っていますよ』

『困り事……今回の話の展開について以外にですか?』



 セノさんからの問い掛けに俺は答える。



『はい。ここがゴールじゃないので物語はもう少し続くんです。ただ、前々からヒロインの声が少しぼんやりとした感じになってて……』

『書いている内に少しイメージが変わってきたからとかそういう感じですか?』

『かもしれないです。気持ち悪いかもしれませんが、その小さな頃に好きだった子が成長したらこんな感じになるかなというイメージだったので、声も少し似せてたんですが、やっぱりもっとこうじゃないかなとかここはこうだろうなとか色々考えるようになっちゃって』

『なるほど……』



 そこまで話した時、自分の妄想などを織り混ぜて話した事で流石に気分を害させてしまったかなと思い、話題を変えようとしたその時だった。



『あの……私が声、あてましょうか?』

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