こんなお店があったら、行ってみたい。
そう思うけれど、あたしにはきっと踏み出せない。
人の多いところが苦手だから。
でも、客のいない店内は、お店の人に注目されてしまうから、たぶん居心地が悪いだろう。
だから、雨の日を選んで通うんだ。
雨の日は不思議と心が踊る。
雨が降っているなら、なぜかいつもの視線が気にならない。
雨はあたしの相棒だ。
そんな、雨に誘われた人たちが、今日も集まってくる。
穏やかな時間に、こーひーの香りが彩りを添える。
───
あたしの近所にこういうお店はないけれど、
物語の世界なら、いつでもご来店できます。
雨が降ったら思い出す…あ、あの店行こうかな、
そんな物語に出会えました。
雨の日だけ開店する不思議な喫茶店『かふぇ・れいん』。明るく美人な夕雨さんと、穏やかな青年の雨月さんの二人が切り盛りするこの喫茶店では、美味しいスイーツやお茶が皆様のご来店をお待ちしています。
店内ではしとしとと雨音が響き、ゆっくりと時間が流れる。学校帰りの学生さんが勉強したり、会社員やOLさんが一息ついたり、常連の老夫婦がスイーツを楽しんだりと、老若男女が思い思いにくつろぐ穏やかな雰囲気が素敵なんです。
不思議なことに、この喫茶店には特別な縁のある人しか辿り着けない。そして訪れるお客様は心に悲しみや苦しみを抱えている人ばかり。
お客様たちはスタッフとの何気ない会話を楽しみ、静かな時間を過ごして気分をリフレッシュし、再び日常へと帰っていきます。
そもそも何故、雨の日だけに開店しているのか。そこには夕雨さんと雨月さんの秘密が隠されている。徐々に明かされていく神秘的で独特な世界観に魅了されます。
雨の日はジメジメしたり、洗濯物が乾かなかったり、イベントが中止になったり嫌いな人も多いかもしれません。でも、そんな雨の日もこの喫茶店では特別な日に感じられて、愛おしくなる作品です。
(「暑い夏こそ水分補給」4選/文=愛咲優詩)