今日、僕はまた君を殺す
@asobunn
第一話 1
何も聞こえない、何も感じない無意識に、外から鳥の囀りが飛び込んできてしばらく頭に留まり続ける、そして俺が目を覚ますと同時に何処かへ飛び去っていった。俺は内心苛つきながらもう一度眠りにつこうと意識する、が意識的に無意識にはなれないと思考するくらい俺の頭は冴えていた。仕方なく力の抜けた腕を動かしすぐ横の小テーブルに置かれた目覚まし時計を凝視する。ぼやけた視界のため時刻を確かめるのに少し苦戦するが、なんとか確認することが出来た。
午前六時三十六分、歩いて十五分での所に高校がある俺ならまだ寝ていても問題無い時間だ。かといって耳に入る雑音のせいで目は完全に覚めてしまっていて、今から二度寝をするとなればそれこそ寝付くまでの時間で遅刻してしまう。あれやこれや悩んでいるうち、ベッドに投げ捨てた目覚まし時計が強烈な音をたてて鳴り始め、俺はあわてて手を伸ばす。そして忍者よろしく、振動するアナログ時計特有のハンマーを指で抑え動きを封じている間に後ろのスイッチを押し音を止ませた。いつもなら寝起きと同時にやる作業を目が覚めた状態でしたためか、少し面倒くさく感じてしまう。この時計ももう15年も使ってるし、そろそろデジタル時計でも―
「和人!!!あんた目覚まし鳴ったんだからいい加減起きなさい!!!お母さんあんた起きるの待ってたせいで鍋煮すぎて焦がしちゃったのよ!!!」
俺の語りを遮って母の掠れた声が階段下からドアを抜け耳に入る。多分母は俺が起きていないと思って起こそうとしたのだろう、それは良い、そしていつもありがとう、しかしなんだ、俺のせいで鍋が焦げた?ちゃんと火を止めなかった自分のせいだろう、何の罪もない我が子に責任を押し付けないでほしい。
「母さん起きてるよ、それと俺に焦がした罪を擦り付けないでくれ、焦がしたのはちゃんとかき混ぜなかった母さんだ」
「それもそうね、じゃあ早く着替えて、ご飯食べちゃいなさい」
「わかったよ」
納得してくれた事に安堵する、ここで罪を認めてしまえば多分学校から帰った後焦げ取りをさせられるだろう。帰宅後まずやることがスクレイパー片手に焦げ落とし何て恥ずかしすぎて誰にも言えない。まぁ友達なんて日向以外一人もいないけど、ボタンを止め終わった制服を見ながらそんな事を考える、今日も学校は好きになれなさそうだな、日向と待ち合わせもしてるし学校には行かないとな、ネガティブな気持ちを引き締めるようにベルトをキツキツに締め上げ、リビングに降りる。
「ほら早く食べちゃいなさい、いつもより時間はあるけど、ゆっくりしてたらすぐ遅刻時間になっちゃうわよ」
「わかってる、ご飯食べて寝癖直したらすぐ行くよ」
そう言って食卓の席に付くと、机に置かれていたのは焦げついた夕飯の残り物と大盛りのご飯だけ、母はしっかり根に持っていた、というか俺は本当にイチミリも悪くないのに、何故こんな処遇を受けているのだろう。流石にこれをおかずに大盛りのご飯を食べるのはきついと思い、ご飯を炊飯器に半分程戻しに行く。
「では………七時三十分のニュースです」
「やばっ!!!」
席に戻る頃には日向との約束の時間数分前、乾いた舌にご飯をいっきに積みあげ、コップ一杯分の水で流し込む、微妙な口内をほうったままカバンを持ってダッシュで家を出る、道中、いってきますを言っていなかった事に気づくが、無実の罪で報復されたのだ、報復返しには丁度いい、大量の焦げたおかずでもがきくるしめ、ただ、朝飯を抜いた挙げ句全力ダッシュ何て、俺もつくづく運が無いな…いや、やっぱり俺は世界一運が良いのかもしれない。目の前で俺に対して手を降っている男子高校生を見てそう思った、自然に笑みも浮かんでくる。
「やっと来た、和人おせーぞ、たっく僕を待たせる何て、君はいつからそんな偉くなったんだ?」
そう言って日向、俺の幼馴染み兼好きな人は軽く頬を膨らませた。
今日、僕はまた君を殺す @asobunn
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