過去編2 現実と代償

後にわかったことだが、私は手足以外に痛覚が完全になくなってしまったらしい。そして、汗をかくことも難しくなっている。


これも全て、私がトラックに潰されたからだ。

中身はとっくに成人しているが、身体は小学生女児だからか、だいぶんフワッと伝えられた。


伝えられた通りに言えば、トラックに潰された時に神経が圧迫され、痛みや温度が感じられなくなって、汗もかきにくくなった、といった所だ。


 ……ならば、最初に目覚めた時の猛烈な頭痛と渇きはなんだったのだろうか?げんしつう………幻視痛だったか?(正しくは幻肢痛)……ありもしない痛みを脳が錯覚したか?………まぁ、考えても無駄か。


そして、昏睡から目覚めて一週間程たつが初めて水を飲んだ時、何も味がしなかった。


 私のしっていたフィクションの世界では甘い!だとか水がこんなに美味しいなんて!!と歓喜している様子が定番だったが、そもそも水の味なんてわからないし、こんなものかと思っていた。


 しかし、流動食が食べられるようになってから確実に違和感があった。


 病院食は味が薄い、不味い、少ない、の不評の三拍子だが、不味いとか言う前に、なにも、なにも味がしなかった。量は丁度良かったが。


 あのマシュマロ医者、味覚に関してはなにも言って無かった。だが……………一つ、仮説という妄想が私の中で膨れ上がっている。


 その仮説と言うのが、私が、というものだ。


 現実的に考えて、家に大穴を開けるほどのスピードで突っ込んできたトラックに小学生女児が潰されて、何故生きているか?


 前世からしたらピンクだの青の髪色や瞳を持つのが当たり前のこの世界はアニメやフィクションの世界だが、今の私に取っては現実だ。


 現実の世界で、その条件で生きていることができるのは、某筋肉鳥頭だけだと私は思っている。


 それに左側、心臓が片寄っている場所だ。


 手足がちぎれ、圧迫された上に、トラックは爆発し、大火傷もした。なのに、生きている。


どう考えてもおかしいと思う。

人体の耐久度を越えているんだ。


手足が千切れたなら、動脈も千切れていて失血死

潰されて、内臓破裂や、あばら骨が折れて内臓に刺さる

火災による焼死や、酸欠や一酸化炭素中毒


これだけの死ぬ要因があった。

だから、この原因不明の味覚脱失はその代償だと考えた。

まぁ安すぎるとも思うがね。


ともかく、精密検査を受けても原因がわからないならこう考えることにする。

……………甘いものが好きだったのだが、仕方ない。

その他にも、髪色や質、瞳の色も原因不明のまま変貌しているが、これも代償なのだろう。


看護師達や両親が頑なに私の容姿がわかる物を遠ざけていたせいで、今までわからなかったぞ。





そして、目覚めてから今日で丁度一月と半分になる。

最近では、この枯れ木のようになってしまった身体に最近脂肪とうすーく筋肉が付いてきた。


マシュマロ医者曰く、どうやら私は治癒力が高くとてつもないスピードで治療が進んでいるらしい。


半年の間昏睡していて、幼いながらに付けていた筋肉はほぼ消えてしまっていたが、目覚めてからはマシュマロ医者や看護師に相談しながら、筋トレとも言えない体操をしていたからだと思ったが、


 

 「そんなわけが無いでしょう………大人でも、今の君レベルまでにはまだ2ヶ月ちょっとはかかるよ」


 「きっと、毎日がんばってるから神様が助けてくれてるのよ。偉いねカズラちゃん」



とのことらしい。

それより、昏睡中にガサガサな髪へと変わってしまったようだから、あまり触らないで欲しい。

 私とて女なのだ。


 

 「今日も、蓮は来ない…か」


 「…………」


 「ごめん、蓮も母も父も責めるつもりは無い」



 見舞いに来てくれた母にこの言葉を漏らしてしまうと、母は力なく、項垂れてしまう。

 私も学習ができていない………わけでは無いのだ。

 だが、見舞いに来てくれると毎回、蓮の顔がちらつくのだ。


 

 「アレは誰も、だれも悪く無かった。誰も死ななかったから、良かったんだ」


 「……そう、…ね」



 そう、あのトラックは、無人だった。

 ましてや、運転手が安全停止装置を付けなかったわけでもない。

 

 

 


これら全ての偶然が重なった上での事故だったのだ。


 

 「蓮は怪我、してない?」



母に訪ねると、母は気まずそうに目を反らした。

まさか、



 「…き、昨日はリモコンが打ち上げられて……たんこぶができてたわ」


 「…………相変わらず、かぁ…ふふっ」


 

 たんこぶを押さえて、しょんぼりしている蓮の顔が思い浮かぶ。しょぼんとしていて、蓮には悪いが可愛いのだ。

 

 だからこそ、会いたい。


私と蓮は双子で、分け合った片割れだ。

だからどうしても、共に居たいと思うのだ。


無論生涯ずっと一緒、なんて言うつもりはない。だが幼い頃、蓮に恋人ができるまでは共に居たいと思ってしまう。


中身を考えればショタコンだの犯罪者だの指を刺され笑われるだろうが知ったことではない。



今も夜になれば寝付くまで蓮の事を考えてしまう。


それは、考えるだけ会えない事を実感して身に沁みるが、だからこそ、少しでも早く退院して家に帰って抱き締めたい。

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ラブコメ、黒一点 @LK-021

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