第7章 27話 淡くかがやく誘宵の月の夜に⑥

 ゆん菜は脚を引きずるようにして、森を進む。


 もう、どれくらい歩いただろう。


 本当になにも見えない闇の深さだ。ゆん菜は枝や根にぶつからないように進んでいく。


 参加者は他にも数人いるはずだ。だか、誰にも会わない。女神の霊力なんだろうか。


 静まり返ったふしぎな空間だった。


 さっきから嫌な想像ばかりしてしまう。


 なんだか、疲れ切ってしまった。


「もうこのまま動かないで、夜明けを待とうかな……」


 ゆん菜は力なく顔を上げた。


 森の中に、月明かりが強く差している場所があったからだ。


 木々の枝葉が薄く、その分月明かりが届いていた。まるで、舞台を照らす灯りのようだった。


 透き通るような、淡黄色の月明かりだ。


 その明かりの道で、誘宵の月を見上げる優夜がいた。


 ゆん菜を覆っていた闇が消えた。


「見つけた、優夜先輩」


 優夜は振りかえる。言葉なくゆん菜に近づいてきた。


「やっと逢えたね、ゆん菜……っ」


「逢えたね。優夜先輩」


「やっとだね。すごく時間を長く感じたよ。もう、離さないよ、ゆん菜」


 優夜の向こうで、大きな大きな誘宵の月が輝く。優夜の月色の髪がやわらかく揺れる。


 もう、離れない。

 これからはずっと一緒だよね。


 ゆん菜は月の光の中に入り、優夜と寄り添うように立った。


 丸い光が舞う、美しい世界。


 美しくて、優夜先輩がいる異世界。この世界で生きていきたい。


「ゆん菜……」


 優夜がゆん菜を呼ぶ。

 

 彼は優しい目をして霊力を放った。やがて、月のとばりが降りてきた。


「優夜先輩……?」


「この俺の霊力はね、ゆん菜と離れないって願いの印」


 優夜はとばりを引き寄せる。ゆん菜と一緒にくるまった。


 これからは、ずっと一緒だよね。優夜先輩。


 ゆん菜の視線に、優夜は微笑む。


 ずっと一緒だよ、ゆん菜。

 月のように静かな笑顔で、優夜がささやいた。




                  終わり

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月色の王子と異世界で恋をする 近江結衣 @25888955

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