第4話

ハルベルトと共に食堂へ向かう。まずは城の酒を楽しみたいと酔っ払いがのたまったためだ。


食堂は空いていた。

みんな演習場に行ったのだろうか。メニューは地球とほぼ同じで、異世界料理らしさはなかった。今日はカレーらしい。大きいナンつきだ。


「おーい、そこのねえちゃん、エールくれ」

「あいよー。さっそく護衛に決まったのかい?」

「そ。俺の強さが分かるかしこーいお方みたいで。」


「知り合いなのか?」

先にテーブルで待っていた俺は、エールのジョッキを片手にきたハルベルトにきく。

「いんや?こーゆーのは愛想がいい方がおまけしてもらえんの、覚えておきなジン少年よ」

なみなみ注いでくれたぜ、とハルベルトは笑った。


「そうか。んじゃあ、いただきます」

「おー。……んー、うんまい。さすが王城!」

ごくっ、と飲み干したハルベルトはこの世界の常識について話し始めた。


「まず、細かいところからだけど、今までのおまえさんの言動から、な。

とりあえず、最初はおれの職業、っつーかまあ、戦闘スタイルについてからかな。

会ったとき、おまえはおれに、魔法使いか、と聞いたよな?おれはそんなもんだ、と言ったが、それは呼び名が違ったからだ。この世界では魔法を使い戦闘するものを魔法士、と呼ぶ。異世界から来たものは魔法使い、と呼びがちだという話はきいたことがあったから、本当にそうなんだなと驚いた。

……だから、魔法使い、というのはこの世界の常識的には異世界人だけだし、そういう使い方をするのは賢者だろうな、とすぐ見当がつくわけだ。正体をあんまり知られたくないのなら改めるべきだな」


「なるほど。魔法士、か。じゃあハルベルトは魔法士、なのか?」

「そうなるな。魔法士の特徴はローブだ。魔法士は防具の代わりとしてローブを身にまとう。鎧なんかよりよっぽど軽くて効率的だな。ローブには付与がついている。防御魔法と魔法適性を強める付与がついていることが流通の最低条件。駆け出しの魔法士なんかはぱちもんのローブを掴まされることも多いらしい。付与は確認すべし、これも常識だ。攻撃の手段としては杖がよく使われるけど、あれは補助みたいなもんだし。」


「みんな帽子をかぶっていたけど、それは?」

「あー、三角帽子な。あれ、よく見ると刺繡が入ってんのよ。魔法学校の卒業生がもらえるやつで、刺繍が各学校の校章になってるから、まあ見栄張るためにかぶってるやつらも多い。ここ王城だしなおさらだな」


「見たところ、ひょろいし他の肉体系戦闘スタイルが向いているようには思えない。魔法士としての訓練をするのがいいだろうから、とりあえず魔法士の説明ってことで、まあ、こんなもん。

あとは……王選関係ならこの世界の勢力図とか、か?王城で説明でもあったんじゃないのか」

「十の国があって、各々五人の候補を出している、くらいの情報しかない」


「あー、まあ、ややこしいからな。でもまあ、委員会からの説明とかあるだろ。……ごっそさん」


混んできたし場所を移そう、とハルベルトが立ち上がる。

確かにぽつりぽつりと人が増え始めていた。


ちなみに、カレーは甘口だった。じゃがいもがほくほくじゃなかったのは少々不満だったけど、概ねおいしかった。


                   *

食堂を出たあたりからハルベルトは千鳥足になり始めた。ふらふらしながら、肩を寄せてくる。

「酔ったふりするから、ちょいと付き合ってくれ」

ぼそっとつぶやかれたそれに軽く頷く。


黄昏の王城の門にたどり着く。門は人気がなく、一人の門兵しかいなかった。荷物用の門らしい。


ハルベルトがふらふらしながら陽気に門兵に絡みに行く。

赤ら顔のハルベルトに門兵が苦笑いをした。


「えー、ダメなんすか。まじかあ……賢者様にかわいい娘紹介しようと思ったんすけどねえ……」

「分かるけどよお、だめなもんはだめなんだよ」

「えー、あんたも分かるっしょ?賢者様に城下の可愛い娘紹介したかったんすよ、ここの酒は上手いけどさあ、町娘の素朴な可愛さも欲しくなるじゃん、なあ?ダメ?」

「ダメだって、賢者様を外に出したらダメなんだよ、そーゆーふうにお触れが出てるんだべさ、破れん」

「おっさん、真面目に働いて偉いべなあ、その訛り、北部出身だろ?……なあ、アリュー侯爵領の酒持ってんだけど、どうよ?」

「……悪いが、本当にダメなんだ。」

「……そうか。……ま、しゃーねーな。んじゃあ、城下でしゃれこむのはやめるか」


呆れたようなため息をつき、部屋に行くぞ、と顎をしゃくる。

さーせーん、と言うハルベルトの肩を支える。


「……ちょっときな臭いな。王は賢者の自由は許す気がなさそうだ」

「……なるほど」

「この調子だと部屋も危ないかもしれない。うかつに秘密を洩らさない方がいい」

「……ありがとう」

「いんや、これくらいはな。護衛なんだから、な。王城の酒の分くらいは仕事するぜ」



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