第3話
演習場は熱気に包まれていた。さすが異世界というべきか、金属製の鎧をまとった騎士やら、いかにもな三角帽子と杖を持ったローブ姿の魔法使いやら、数人でまとまっている者もいれば、一人で佇んでいるものもいる。
この世界の戦闘スタイル的には、魔法使いは帽子と杖、他は何かしらの防具と武器、というのが一般的なようだ。
俺は演習場の片隅にひっそり立って、全体を眺めることにした。大広間とは反対方向のひっそりした出口の近くで壁の花としゃれこむ。
何かあったらふらっと逃げ出せる、これ大事。
うっかり玲に会ったら気まずいし、端から真面目に推薦人なるものをやるつもりもなかった。とりあえずあんまり任務に熱心でなくて、でもそこそこ強いいい人材でもいないものか。
ふと、入り口の奥のあたりが騒がしくなる。
「ういーっす、すんませーん、遅れましたあ」
「おい、そこのお前。待て。酒は禁止、しまえ。それから紹介状を提示しろ」
「はー?酒だめなの……ったく。紹介状ねえ……紹介状、紹介状……っと……あれ」
「不届き者だ!」
「押さえろ!」
「いや、え、ちょま……えー……困るって、ね、ね?ここは穏便にいこうよ」
「たわごとを。ここには異世界からの賢者さまがたがいらっしゃるのだ。身元が保証されない飲んだくれを通すわけにはいかん!」
「あのー……すんません、その人とちょっと話してみたいんで、通してもらえますか」
「は、賢者さま!?」
「おー、あんたが賢者さまか」
衛兵に囲まれて立っていたのは怪しげな黒いローブを着て酒で顔を赤らめた男だった。魔法使いらしき杖も持たないし、帽子もかぶっていない。だが、その瞳はどこか冷静だし、衛兵に囲まれても困りはしているものの、焦った様子もない。相当な強者かもしれない。
「しかし、賢者様。これは皆様方の安全を保障するうえでも大事な規則でして……」
「……じゃあ俺が外に出て話をするのならいいのか?」
「は、……いえ、それは危険かと」
「…………あー……すまん、思い出した。そこの衛兵さんよ、俺のローブまくってくれ」
「……」
飲んだくれ男のローブの下、男のズボンのウエストには金色の封筒が挟まっていた。
「……確かに、確認いたしました。」
衛兵が苦虫をつぶした顔で頷き、男は演習場の中へと入ってきたのだった。
*
「おー、うじゃうじゃいんなあ」
男は演習場の熱気に目を細めた。
「いやあ皆さん熱心なことで。……んで、おれはおまえさんの護衛候補にめでたくも選ばれたってことでいいのかね」
「あー……あんたは王にしたい人が決まってるタイプの人か?」
「いんや。俺をここに送ったのはとあるお方だけど、王選争いには興味のない人でね。それにまあ、主人ってわけじゃーないから?俺としては酒代が稼げればなんでもいい」
酒、ねえ。確かに顔は赤いけど、足取りはしっかりしてるし、なんというか隙がない。どうしようもない男を演じているだけのようにも思える。
「ふーん。あんたは魔法使い?」
「ま、そんなもん。護衛には向いてるほうだから安心したまえ少年」
「……ジン。俺はジンだ。」
「おっと、こりゃあ失礼。ジン様と呼んだ方がよかったですかね」
眼光が鋭い。やっぱり只者じゃなさそうなオーラを感じる。
「……そういうことじゃない。名乗り忘れるなんて悪かったと思っただけです。……この世界について教えてほしいから」
「ほう。てっきり俺が主人だ!って感じかと思いきやそういう感じ。
ふーん」
「それで、俺が頼みたいのは主に二つだ。一つは、俺がこの世界の常識と生きるのに十分な戦闘力を身に着けるのを手伝ってくれること、もう一つは俺を護衛すること。身の安全とだまされるのを防いでくれれば言うことはない。」
「戦闘力、ねえ。自分で戦えるようになりたいわけ?」
「将来的には。この世界で生きていくのに十分なくらいには、な。別に勇者になりたいわけでもないしそんなにすごくなれるとも思ってない」
「……いいぜ。よろしく、ジン。俺はアリュー侯推薦、賢者護衛候補、ハルベルトだ。おまえの護衛になり、支えることを誓おう」
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