パワータイプなサーシャの知り合い
町に到着した時にはすでに空が茜色に染まりかけていた。
「では、二人は明日のお昼まで警護をお願いね」
アルレリアと同じ宿に泊まることになるが、当然ジャンは同じ部屋で寝ることはできない。そのためサーシャが同室となりそばで守ることになった。
「おほーい! ベッドふかふかだぁ~!」
「ちょっと、はしたないわ」
「そうですか? ……あ、お姫様はもっといいベッドありますもんね」
「お姫さまって言うなっ! すぐばれちゃうでしょう! 今はアルレリアで通して」
「確かに! ……って誰にバレちゃうんですか?」
「ネクロバーバリアンよ。あなたも名前くらい知っているはずよ」
「あ~、ジャンさんが言ってましたね。確かエンシェントプレシャスを集めるって。でも、それを集められるとどうなるんです?」
あまりにも世の中のことを知らないサーシャに対し、あきれながらもアルレリアは丁寧に説明をした。
古代に作られた道具であるエンシェントプレシャスは一つ一つに強力な力があり、それらをすべて集めてしまえば国を越え世界とさえ対等以上に戦える。しかし、本当に危ないのはすべてを集められることではない。
「すべてのエンシェントプレシャスを集め、古代人の作った祭殿に収めると世界のパワーバランスを逆転させると言われてるわ」
「じゃあ、壊しちゃえばいいんですよ」
「とっくに試したわ。現代の優れた魔法で試してみたけど、燃やそうが雷を落とそうが闇に食わせようが空から落とそうが、すべて無駄。傷一つつかない。最良のほうほうはそれぞれの国が一つずつ集め、封印すること。そうして国同士が手を取り合えば平和にもつながるわ」
「へぇ~」
「あなた、よくわかってないわね」
「まぁ、あまり。でも、集めて配ればいいんですよね」
事の重大さをまったく理解していない自由すぎるサーシャと話していると疲れが溜まるため、外の空気を吸いに宿の外に出た。通りには町の人たちが行きかい、ネクロバーバリアンの反逆がいつ行われるかわからない中で、平凡な日常を過ごしている。
危機感ばかりがつのるアルレリアだが、こういう日常風景を見ている時だけは気持ちが安らぐ。なにせ、普段は城の中で対策を考えたり両親が悩んでいる姿を目の当たりにしているのだから、休まる時間はない。
これも、発明できるほどの頭脳をもってしまったがゆえの悩み。
「外出る時は声をかけろ」
「確かに不用心だったわね。ごめんなさい」
「……意外だな。すんなり謝るとは」
「素直さも武器の一つよ。時には嘘もつくけど」
ジャンはアルレリアのことについて詳しいわけではなかったが、それでも危険をおかしてまで一人で移動しているということは、それだけ重要なことだというのはわかる。サーシャがあんな感じのため、自分がなんとかしなければという使命感が強かった。
楽に稼げるかと思えば蓋を開けたら大変な仕事。ジャンは多少の後悔はしていたがそれでもこのままいけば危険はなく追われる可能性が高い。一応仕事を受けたからには最後までやり通すのがジャンのやり方。
部屋の中だけはサーシャに頼らざるを得ない。
「あー! ガルスさんじゃないですかぁ~!」
嫌でも聞き覚えのある声がなぜか通りから聞こえる。
声のする方に視線を向けてみると、やはりサーシャが外に出ていた。筋肉質な長身の女性に対し親し気に声をかけている。
「おい、サーシャ! そんなとこでなにやってんだ」
「あ、ジャンさん外にいたんですね」
そういうとサーシャは女性の手を引っ張りジャンの下にやってきた。
「以前、一緒に行動させてもらったキャラバンの隊長さんです」
大人の男性の平均的な身長であるジャンよりも頭一つ分高い女性は、気さくに手を出し挨拶をした。
「ガルスだ。サーシャの相手は疲れるだろう」
「そちらが引き取ってもらっても構わんけどな。ジャンだ」
ジャンがガルスの手を握った瞬間、いきなり力を入れられてしまう。岩さえも素手で砕けそうな尋常じゃない力の前に、一瞬怯むジャンだったが一応剣士としては他を寄せ付けないことを自負しているため、対抗し力を入れた。
ガルマは意外にも奮闘するジャンをみて小さく笑った。
「へぇ~、悪くないねぇ。まっ、サーシャに振り回されないようにな」
そういうとガルスは去りながら軽く手を振った。
サーシャはとくに追いかけることもせず手を振り返していた。
「サーシャ、あいつはなんであんなパワーがあるんだ」
「素手でモンスターと戦ってましたよ。すごいですよね」
パワーは確かに尋常じゃなかった。
しかし、それ以上に何か別の雰囲気をジャンは感じていた。
旅人メイドで力もないし魔法も使えないけど勇気と度胸だけならあります!~メイドと剣士の悪党対峙大冒険~ 田山 凪 @RuNext
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