みんな知っていた少女の正体

 あと二時間程度で町に到着する中、アルレリアは空腹に悩まされていた。

 もう少し早く到着すると想像していたため、食べられるものも持ってきていない。

 すると、馬車の窓をサーシャが叩いた。


「何かしら」

「これどうぞ」


 サーシャが渡してきたのはパンだ。

 鞄をもっていないのにいったどこから出したのかと不審に思っていたが、空腹には敵わずサーシャからパンをもらい一口食べる。


「おいしい……」

「ですよねっ! お腹空いてる時にたべるとまた格別です」

「もしかして私がお腹空いていたのわかっていたの?」

「もちろんですよ。メイドですからっ!」


 サーシャは手綱から手を放し腰に手を当て自慢げに言った。

 しかし、すぐにしまったと言った風な表情をする。

 アルレリアはその表情が何を意味するのかわからなかったが、次のサーシャの言葉で理解することになる。


「すみません、私偉い人とあまり話したことなくて。つい、いつものノリが。……もしかして処されます!?」

「ちょ、ちょっとまって。あなたは一体何をいってるの? 私にはそんな権限ないわ」

「だって、お姫様ですよね」


 アルレリアはなぜ見破られたのかわからず顔を隠した。

 アルレリアという名前も偽名、ローブで姿を隠し、馬は町で買って馭者も知り合いの知り合いのそのまた知り合いの知り合いの町にいる人を雇ったのに、こうもあっさりバレてしまうとは想像してなかった。

 すると、馭者がぼそっと言った。


「お金のはぶりがよすぎるのですよ」


 それに続いてジャンも。


「言葉遣いや所作が上等な貴族か王族関係ぽかったしな」

「え、まって! みんな気づいていたの!?」


 三人は同時に頷いた。

 

「だって馬車のフレームめっちゃいいやつですよ。馬さえ走ってくれれば荒地でもそう簡単に壊れないし、それに中の椅子もふわふわ。これで普通の人なわけないですよ~」


 アルレリアはひどく頭を抱えた。三人にこうもあっさりバレてるということはほかにもバレている可能性が高く、隠れて移動しなきゃいけないのにこれじゃあまったく意味がない。


「でもでも、どうして隠れて移動してるんです?」

「大事なものを受け取りに行くのよ」

「ハンターにとってきてもらえばいいのに」

「それができたら苦労しないわ。私じゃないとわからないから確認しに行くのよ」

「でも、その渡してくれる相手がやばい人だったらどうするんです?」

「……考えてなかった」


 ジャンは前方を歩きながらあきれ気味にため息をついた。

 

 アルレリアの正体は王国の姫リアナだ。

 発明の申し子と呼ばれるほどいろんな発明をしており、それは武器から日常の道具まで、ここ数年で一気に国力が上がったのは天才の頭脳のおかげだ。

 ここまで来たら多少不用心だとしても二人に信頼してもらうためなぜこんなことをしているかを話した。


 それは新たな発明、エンシェントプレシャスだけが発する波を感知する機械を作ろうとしていたのだ。まだ未完成状態の機械を鞄から取り出すが、その形は厚い本にしか見えない。しかし、開いてみると左側には光で地形が描かれており、右側にはみたことのない様々なパーツがはめ込まれてある。


「あと一つ、特殊な魔法石が必要なの。そうしないと波が感知できない」

「すごいですね! 私でも作れますか?」

「作れるわけないでしょ。毎日勉強して想像力を働かせて、それを実現させるために何が必要かって膨大な量の知識を記憶することがあなたにできる?」


 サーシャは珍しく難しそうな表情を見せた。

 怒っているわけでもなく戸惑っているわけでもない。

 その姿を見てアルレリアはほんの少しだけ不安になった。

 なにせサーシャは七日間で上級者レベルの乗馬技術を身に着け、どこからともなく物を取り出す暗器術にも似たことをやってのけ、全員気づいていたとはいえ姫であることをいち早く察知し、馬車の構造に対する知識も深い。

 もしやこのメイドは天才なのではないか。本人が自由に過ごしているだけで実はものすごい実力をもっているんじゃないか。

 不安は緊張となり、サーシャの次の発言へ全神経が集中する。


「無理ですねっ!」

「でしょうね!!!」


 そんな他愛もないことを話しながら何も問題もなく隣町へと到着した。


 

 

 

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