二十九万 ZON BE VAL

「ガッ!」


 胸に鋭い痛みが走り、口から大量の血を吐いた。

 確実に、心臓を貫かれた。


「おま、どうし――」

「〈シャドースワップ〉、分身と本体を入れ替える技だ。危機一髪だったぜ、まさか金を隠し持っていたとはな」


 背中を蹴りつけてナイフを抜かれ、地面に倒れ伏す。

 立ち上がろうとするが、力が入らない。

 体は際限なく冷たくなり……初めて死を実感した。


(あー、こりゃダメそう、だ)


 まあ、特にやり残したことは無いか。

 食べたいものは大体食べてきたし。

 商会に付いてからの生活は、とても楽しかった。

 割と人助けもしてきたし、きっと誰かの役に立ってきた。きっと、誰かの記憶に残っている。






 ……まだ、ヘッグこどもの行く先を見れていない。

 リサから『誰にも渡さないで』と言われた拳銃は、ポーチと共に奪われたままだ。

 もう一度くらい、父さんと兄さんに会っておいても良かったかもしれない。

 何より……マーチェに『お前は絶対に俺が守る』と宣言した。


 まだ、死ねない。


 朦朧とする意識の中、左手に残ったカリバーンを握り締め、頭の中に思い浮かんだスキルを宣言した。


「〈――消費〉」


 カリバーンが光の粒子となって消え……ヴァルは一際大きな黄金の光を纏った。

 その光がヴァルの傷を包み、呑みこむ。

 失われた血も補充され――再び立ち上がった。



 最大の障壁を破壊し、次の襲撃の計画を練っていたドーシャは、背後の眩い光に引かれて振り返った。


「……は?」


 そこにいたのは、傷が消え、太陽のように光り輝くヴァル。


「……俺のナイフは確実に心臓を貫いたぞ。ゾンビかテメェは」

「さあな」


 ……影の中のポーチは消えていない。あの力はどこから来たのか。


 再生力と光の説明は付かないが……どちらにしろ、やるしかない。

 再び影の分身を出し、二人でナイフを構え。

 ヴァルは消えたカリバーンの代わりに拳を構えた。


「「……」」


ヒュー


 道脇の雑草が風に靡く。

 勝負は一瞬。


「シッ!」


ダッ!


 ヴァルは刹那の間に懐に潜り込み、奴の腹を貫いた。


「ッ〈シャドースワップ〉!」


 影と本体を入れ替えられたせいで、貫いたのは影の腹になったが、無駄。


「ラァ!」


 暴力的なパワーで影の腹を裂き、瞬時に裏拳を本体の頭に叩き込み。

 ドーシャは倒れた。

 

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勇者パーティを追放された【費消士】、商人と組んで最強に至る CURRY ICE @Torajojo0626

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