第10話
お腹がぐーっと鳴ったのは恐らく気付かれてはいないだろう。
この部屋は涼しい。それに清潔感があって綺麗だ。私の部屋とはまるで真逆である。
男がおかずを入れたタッパーを持って私に向かってくる。
そして、私に手渡して笑顔でこう言った。
「おまたせしました」
「あ、ありがとう‥‥」
「まだ温かいんで早めに食べて下さいね」
「うん‥」
頭ではわかっているのにいざ喋ると素直に返事をしてしまう。
「ん?どうしたんですか?」
私は無意識に男の顔を直視していたみたいだ。
「え、あ、なんでもない」
キョトンとした顔で見つめられた私は顔が熱くなるのを感じた。
「熱いですか?」
そう言いながら男の手はなんの躊躇いもなく私の頬に触れた。
「ひゃっ//」
突然の事に情けない声を出してしまった私は居ても立っても居られず男の部屋を飛び出して自分の部屋へと戻った。
玄関の鍵を閉め高鳴る鼓動を落ち着かせようと深呼吸をした。頬にはまだ手の感触が残っている。柔らかくて大きい手。いい匂いもした。
飛び出してしまった事、謝った方がいいだろうか。いや、そんな事する必要はない。余計な事を考えてしまうのが嫌だった私は一眠りする事にした。
私は一体何を期待しているのだろうか。
せん妄 @cakucaku
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