そそうをした桃

あしはらあだこ

第1話

 桃太郎の昔話は、皆さんご存知だと思うが、これにはもう一つ別の逸話があるのをご存知だろうか?

 その名も『そそうをした桃』

 これは、桃太郎を乗せたはずの桃が、そそうをしたことで、昔話全体が変わって

いってしまうはなし。


(桃が旬になったこの時期、そろそろあの子を起こしましょう)

 女神はそのように考えておりました。ところが、折悪く突風が吹き、女神の羽衣は、はるか彼方へと舞い上がっていった。

(わしの唯一無二の羽衣が!!!)

(仕方がない、あの子を起こすのは、こやつに任せて、わしは、羽衣を追わねば)

 女神は風のような速さで、発って行った。


 朝もまだ明けきらぬ、弱い光のころ、‘‘それ‘‘は、ある一人の赤子を起こした。

 起こしたのだが、そこはなにせ赤子、こちらのおもわく通りにはいかず、ねむりこけている。

‘‘それ‘‘はずっとけたたましくなっているのだが、深く寝ているものには、おかまいなしなのだろう。

 やっと激しい音に気が付いた赤子だが、どうしていいやらわからぬ。

 やっと戻ってきた、女神は、赤子がまだその場にいるのに気が付いて、仰天した。

(どうなっている!)

(あれはなにをしておったのだ!)

(とにかく、桃はどうしておるのか)


 女神は赤子を抱いて、桃が待っているはずの川へ行ってみると、そこには、桃の姿はなく、すでに出発したあととおもわれた。

(えい!役立たずの桃め!桃太郎が乗っていないことに気が付かぬ奴がおるか!)


 一方、一人(?)気楽に川下りをしていた桃だったが、なんだか妙に中身が軽い気がする。まさか、赤子をのせわすれた?

 もしそんなことがあったら、女神は決して許さないだろう。

 嗚呼、まさか・・・そんな・・・

 昨日は、久しぶりの出番に浮かれて、送別会でもりあがってしまったから・・・

 どおしよう・・・


 川辺でなぜ女神が怒っているのか、理解できない桃太郎。

 隙を見て、茂みに隠れてしまう。

 突如として目の前から消えた(ようにみえる)桃太郎をさがしに、その場を離れる女神。

 こうして、それぞれの運命は分かれていくのである。


 女神がよそへ行ってしまったのを見て、桃太郎は、つたない足で、歩き始める。

 しかし、なんだか心もとない・・・よく見ると、すっぽんぽんの自分。履物もない。

 いままでは、天界の女人たちに、ちやほやされて、何一つ、つらい思いなどしたことがない。途端に、心細くなる。ここはいったいどこだ?

 すると、ややはなれた茂みが、揺れている。そこにいるのは、なにもの!

 ぼくは、将来、鬼退治を任される、英雄だぞ!

 出てこい!!!い、いや、急には出てくるな。

 こちらは丸腰だ。なんなら、ぼくの、一番の家来にしてやってもいい・・・

 さあ、おとなしくでておいで?

 ぼくは心の広い男の子だから、ちょっと驚いたぐらいで、君をせめたり

しないぃぃ!!!???

 などとおもっていたら、そこには、眼光鋭く、クマが立っていた!!!

 この後、このふたり(?)は、『くまにまたがりおうまのけいこ』をすることになるのだが、それはまた別のおはなし。


 一方、川に流されるまま焦っている桃。

 なんとか大きな岩にでも引っかかれないかと、見渡してみるが、そこはなにせ、「かわでせんたくをしているおばあさん」の目の前に現れ拾い上げてもらわないといけないので途中に障害物などあるわけもなく、悠々と流されるままなのであった。

 あぁ、もうすぐおばあさんが現れてしまう。今日は、風邪ひいて洗濯に出られない。

 なんてこともあるわけがないし!!!

 そんな時、川の浮力から、解放される桃。

 びっくりしながら、大きな桃を、意気揚々と持ち帰るおばあさん。

 桃を割ってみたおばあさんだが、拍子抜け。そりゃそうだ。将来、英雄となるはずの赤子がいるものとおっもたのに、中はから。どうゆうこと?

 でも、これって、わたし一人で全部食べても構わないってこと?

 昨日は、おじいさんの釣果が思わしくなくて、おなかすいてるのよね。

 遠慮なくいただきましょう。

 あぁ、桃は種の際まで、きれいに食べつくされ、庭に捨て置かれた。


 もう一方、女神は、桃太郎を探していたのだが、赤子の足に追いつかないはずはなく、自分が逆方向を探していることに気づく。

 しかし、そんな時、目に飛び込んできたのは、老婆の姿。

(もしや桃が一緒なのでは?)

 女神が、後をつけて、老婆の家を探し当てたときは、すでに遅し。

 なんと、老婆が大口を開けて、桃にかぶりついているところだった。

(いまさら止めても後の祭り。桃よ昇天されたし)

 そこへ、目の前に、桃の種が放り出された。

(よし!わしが直に昇天させてやろう)

 と思うが早く、桃の種は粉になっていた。

 ところが、そこへ偶然にも、豊受大神≪とようけのおおかみ≫ が現れ、めざとく桃の種が粉になっているのを見て取ると、女神に、それを譲ってほしい、とお願いし、持ち帰って新作の料理を作り上げた。

 ちなみに、桃の種を、「桃仁≪とうにん≫」というが、あんずの種を「杏仁≪あんにん≫」というのである。そして、共にバラ科のなかまである。

 

                     つづく・・・かどうかはわからない。









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そそうをした桃 あしはらあだこ @ashiharaadako

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