何かが違う

 県立浅海高校男子バレー部は、紆余曲折あって県大会に出場した。特別強豪という訳ではなく、むしろ大会に出られるのが奇跡としか思えないレベルだ。予選を通過し、今は決勝に進んでいる。





 決勝では同じ県の私立高校、佐鳥学院高校男子バレー部と対峙することになった。観客席では、それぞれの高校の女子生徒が声援を送っている。顧問の先生や、一部の保護者も我が子の活躍を見守りながら、「頑張れー!」とエールを送っていた。





 試合はデュースに持ち込まれ、どちらも予断を許さない状況になっている。レシーブを繰り返し、防戦一方の浅海バレー部からは一人の男子生徒が躍り出、ジャンプからのアタックを決めた。





 まだ勝敗が決することはなく、結局ギリギリの攻防を繰り返した末に佐鳥学院バレー部の勝利となった。惜しくも浅海バレー部は準優勝。だが、それぞれのチームには金メダルと銀メダルが贈られた。





 金メダルを手に入れ、はしゃぐ学生たち。銀メダルを手に励ましの言葉を入れる学生たち。我が子の活躍を誇りに思い、労いの言葉をかける先生や親達。その中に、どちらともつかない学生がいた。





 宮原雄二。彼は浅海バレー部の部員で、小さな頃からバレーボールに親しんできた。だが、それは惰性で続けてきたに過ぎない。にも拘らず、大会では優勝に貢献したこともあった。推薦でこの高校に進学してからも、惰性という部分が変わることはない。





 そんな宮原に、部長の永井が話しかけてきた。

「おつかれ、宮原!お前一年なのに凄いな!このチームがここまで来られたのもお前のおかげだよ!ありがとう」

「いえ、そんな……。俺は惰性で続けてきただけですから……。感謝される程のことではありません」

「凄い頑張って練習してたのに?」





 この時、宮原は困惑していた。自分はただ惰性でズルズルと続けてきただけだというのに、彼はさも理解したかのように褒め称えているのだ。表彰の銀メダルも、鬱陶しさから今すぐにでも捨て去りたいくらいには思っている。






 それでも、永井は、

「謙遜すんなよ、宮原。な?この後打ち上げに行くんだけど、どうだ?」

「遠慮しときます。俺が行っても……」

「みんなお前が来るの待ってるぜ?行こう?」

「ええ……」





 正直宮原は押しの強い永井が苦手だった。それでも、ついて行かねばならない。そう言い聞かせ、打ち上げ先のファミレスへ赴いた。帰ったらあの銀メダルは捨てておこう、そう思いながら。他の部員は永井も含めて皆朗らかな笑顔を浮かべている。違和感を覚えながら、彼はにこにことやり過ごしていた。

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のんびり短編集 縁田 華 @meraph

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