ある日のパソコン教室
東京二十三区を離れ、山々が見えてくるようなところに、栄えた駅があった。駅の周りはビルやショッピングモール、百貨店やゲームセンターといった無機質だが、人々を楽しませる建物に囲まれていた。そこからバスで少し行ったところに、件のパソコン教室はあった。
パソコン教室自体は、雑居ビルの中にあるテナントを借りて営まれていたようで、エレベーターのすぐ近くにある案内板によると三階にある。他にもアニメグッズの店や、小さな事務所、居酒屋などが別の階にあり、案内板の中でもそこは異彩を放っていた。
「遅れてすみません!本日はよろしくお願いします!」
一人の少年がドアを勢いよく開けて、教室に入ってきた。あまりにも大きな音だったせいか、講師の男性は驚き、
「ああ、西田くんだね。こんばんは。今日の授業の説明が丁度終わったところなんだ。詳しいことはホワイトボードに書いてあるから、それを見てね」
言い終わると、彼はホワイトボードの真ん前に行ってしまった。
ホワイトボードには、
『HTMLについて学ぼう P.230
HTMLとは……』
と、今日学ぶ内容が書かれていた。いわゆる、ホームページ作成の基礎だ。彼は『HTML』という言葉に見覚えがあった。それどころか、研究の為に自分でホームページをこっそり作っていた。だからだろうか、彼はつまらなそうな顔でホワイトボードを見つめている。
十人にも満たない他の生徒たちは、四苦八苦しながらHTMLの仕組みなどを覚えようとしている。西田から見ればそれは滑稽に見えたことだろう。あるいは呆れか。どちらにせよ、彼がこの場で先を越していることなど、講師も他の生徒も知らない。
「先生、見てください。俺が作ったサイトです」
西田は手をあげて先生を呼び、パソコンのモニターに映る画面を見せた。携帯ゲーム機やスマホさながらの強い光を放ちつつ、その向こうには不気味な背景やイラストばかりのトップページがある。海外のホラー映画に出てきそうなゾンビのイラストのすぐ下には、『ENTER』と紫色の文字で書かれていた。
「こ、これは……」
「俺、ホラー系が大好きなんです。ここは俺が趣味でやってる絵とか小説のサイトです。まだ作成中のサイトもありますよ」
「う、うん……。凄いね!いつから作ってたの?」
「去年の五月から一年かけて作ったんですよ。つい一週間前に完成したんです」
「ええっ⁈」
西田は苦笑いとともに幾つかの画面を見せ、
「俺はまだまだですよ」
と言いながらインターネットの画面を消した。
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