お見合い

 連日のように、ドアをノックする音が聞こえてくる。部屋の外には母がいて、何を持ってきているのかは理解出来ていた。

「小百合、開けてちょうだい。お母さんね、いいお話持ってきたのよ」

「はあ……」

またか、と呆れながらも私は要件だけ聞くことにした。




 私の住む家は田舎にあり、母は頻繁に見合い話を持ってくる。が、写真の中の男性達にイケメンなどおらず、かと言って年齢の欄を見れば、三十路なら若い方。四、五十代の男性ばかり。その上最後の悪あがきとして年収の欄を見れば、その殆どが五百から七百万円くらいだった。私は二十四だが、そんな奴らとは結婚したくない。



「またどうせお見合いかなんかなんでしょ?私はそんな奴らよりもっとかっこいい人と結婚したいの!」

「あんた、結婚する気あるの⁈同級生は結婚して子供だっているのに!いい人ばかりなのよ?一度でいいから見てみたら?」

「ったく……」

私は母から縁談相手のプロフィールをひったくり、渋々見ることにした。やはり、いつもと同じで中高年のオヤジばかりが載っている。趣味も合いそうにはない。




「ん……?」

一枚だけ違う写真を見た。年齢は二十八、鋭い目つきが特徴的なイケメンだ。職業は行政書士、年収は一千万と申し分ない。

「お母さん、決めた!この人にする」





 見合いは車で十五分程行ったところにあるレストランで行われることになった。私はフォーマルなマーメイドスカートに、白いフリルのブラウス、それにジャケットという格好で席に着いていた。しかし、相手はまだ来ない。





 やっと相手の男性がやってきたが、彼は着いてから私をじっと見ている。何故なのかは分からない。窓の外は夜。橙色の光が包み込む中で何を言い出すのかと思えば、

「正直言って見合いなんてしたくなかった。しかもこんな阿呆そうな女相手にさ……」




 彼は続ける。

「大学時代から思ってたけど、俺女には興味ねえんだわ。だのにお袋は結婚勧めてくるし……。大体女ってのは馬鹿の一つ覚えみたいに『男ってさぁ』とかペラいじゃん。俺はそんな頭悪い女は興味ない」





 この後も彼の罵詈雑言、いや恨み節は続いた。そのうちの幾つかに、私は当てはまった気がする。もしかしたら彼の周りの女性達は薄っぺらい連中ばかりで、話すに値しない人ばかりだったのかもしれない。





 結局話は三十分で終わり、私は重い足取りで帰宅した。田舎の道だからか、街灯はあまりない。豪華なレストランで言われた言葉は私を潰すには充分で、もうドアを開ける気にさえならなかった。


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