『手をつなぐ』
ヒニヨル
『手をつなぐ』
私の名前はモモ。大学生です。
この大学には児童文学を学ぶためにきたけれど、それも本当にしたかった事なのか、自分でもよく分かっていません。
あまり大きな声で言えることでは無いけれど、性格はとても優柔不断で、良くも悪くも適当です。細かいことは気にしません。いや、気にしない事はないけれど「気にして無いよね」「ツッコミどころが多すぎる」と言われることが多いです。
友達からも「モモちゃんが仕事をしている姿が想像できない」と言われる。社会人になれるのだろうか。今から心配。
それはさておき。
先日、友達のアキとミユから、Hちゃんを紹介してもらった。Hちゃんは、ふたりと同じゼミらしい。気がつくと、同じ授業を受けている事が増えて、仲良し4人組になっていた。
3人はあまり自分から進んで何かするタイプでは無いので、だいたい私が「クリスマスが近い。パーティをミユの家でするのだ! 忘年会も兼ねるぞ!」と言う。するとだいたい、アキが「この日が良いんじゃない? ミユとHちゃんは大丈夫?」と調整してくれる。
Hちゃんが「鍋がいいね。私は鍋が好きだ。ケーキも買わなくちゃね」と合いの手を入れる。
ミユは基本ほとんど喋らないので、ニコニコ笑っているだけだ。(でも言うことはハッキリ言ってくれるので、大学で変な勧誘に遭遇した時「結構です!!」と私の代わりに振り切ってくれた事がある。とても感謝)
そうこうしているうちに、クリスマスパーティーの当日になった。4人はミユの家に集結した。
「さて、鍋の材料は買ってきたものの。誰がお料理をするのかな?」
私は面白おかしな口調で言った。正直、この4人は料理ができない。私とアキは実家暮らし。ミユとHちゃんはO県出身なので、一人暮らしをしているが全然しないらしい。
「はぁ、これは私がする事になるんかね」
とアキが言った。ニコニコしながらミユが「包丁はここにあるよ。はい、まな板ね」とコンパクトな流しの横に置いた。
「お母さん、ごはんごはん」
「お腹すいたよぉ」
私とHちゃんがふざけていると、「君たちは座って待ってなさい」と笑いながら怒られた。
まあ、鍋は割と難易度が低い。食べやすいように切って、つっこむだけだからね。
「キムチ鍋だ!」
「食後のケーキは冷蔵庫にあるよ。ペロっと食べちゃいましょう」
アキがそう言ったので、みんなでコタツに入り込む。
お皿とお箸を並べてもらいながら、私は言った。
「まず、作ってくれたアキに感謝。お家でパーティを開かせてくれたミユにも感謝。……私とHちゃんは、にぎやかしですけども」
「君たちはいつもの事じゃないか」
冷静な口調でアキにつっ込まれた。
「ともかく、お腹が空いたね。いただきます!」
そう言うと、みんな「いただきます」をして食べ始めた。美味しかったなぁ。
ケーキもあっという間に完食して、お腹がいっぱいになった。
「お腹がいっぱい。私は眠たくなってきたよ」
Hちゃんが言って、ミユもあくびをしながら「私も眠い、ちょっと寝るね」と言う。ふたりはコタツに入ったまま、寝転がった。
「私もお腹いっぱいだな。ゴロゴロしたいかも」
寝転がろうとした私の前に、日本酒の一升瓶がドンと置かれた。
「モモちゃんには付き合ってもらわないと」
アキがにっこり笑いながら、私の前にグラスを置く。
「ふたりはお酒飲めないでしょ」
言っていなかったけれど、アキはかなりの酒豪である。特に日本酒が大好きだ。
「お酒は飲めるけど、私は酒豪ではありませんよ?」
置かれたグラスになみなみと日本酒が注がれている。
「ひとりで飲んでも楽しく無いじゃん。君に選択肢は無いよ」
そこまで言われたら、言い返せない。
というか、寝たふりしてるよね、ふたりとも起きてるよね。笑ってるし。まあ、良いんだけどね。
私はすっかり、酔っ払わされていた。
「モモちゃん、さっきから全然減ってないよ? もっと飲もうよ」
「アキ、このグラスおかしいよ。一口飲んでも、いくら飲んでも、減らないんだよ」
私はあまり呂律が回っていなかったかもしれない。アキが笑っている。そりゃそうだ。私が1センチでも、0.5センチでも飲もうものなら、日本酒を注ぎ足しているのだ。減るわけがない。
「あれ、何の話してたっけ」
「獣姦」
アキが真顔で答える。
「なんでそんな話になってるんだ。難しい話はよく分からないよ、私」
アキは難しい事をよく知っている。歴史にも詳しい。大学にある池波正太郎の剣客商売を全巻読んだらしい。三国志にも詳しい。私は全く興味がないけれどBL小説も書いている。そう言えば、なぜか、いつも曹操のことを「曹操さま」と言っている。
「あ、そうだ。この際なので言っておくんだけど」
私がそう言うと、アキは興味深そうに「なになに?」と前のめりになった。
「私とHちゃんって、変かな」
テレビの方に視線をやりながら、アキの様子をうかがった。
「変と言えば、変だね。いや、めちゃくちゃ変だね」
アキは笑った。
「はくあいしゅぎしゃ、と本人は言っていたよ」
博愛主義とは簡単に言うと——すべての人は平等に、性別など関係無く、誰にでも優しく愛情を注ぐ——とかそういう意味らしい。(正しく知りたい方は、自分で調べてみてね)
「そう言えば、モモちゃん、Hちゃんに告白されていたね」
アキは日本酒をグラスに注いでいる。
「すごくスキンシップしてくるんだよ。好きって言ってくるし。私の太もも撫でてるし、ちょっと内側の方をね」
「モモちゃんに対しては、異常なスキンシップしてるね。
アキの言葉にうなずいた。
「そうなんだよね。人から好かれるのは嬉しいし、Hちゃんは友達として好きだから、嫌では無いんだよね。それで、気にしてないんだけど」
「まあ、良いんじゃない? そういうところ、モモちゃんらしいね」
アキの言葉にホッとした。
正直、私は男とか女とか、子供とか大人とか、枠組みを決めつけるのが好きではない。曖昧な、ぼんやりしたところにいるのが好きなのだ。
たとえば、海には線が引かれていないのに領海があるというのは不思議だし、つながっている空を誰かのものだと主張するのも変だと思っている。
もちろん、それが必要なことだから、決められているのは分かっている。そうしなければ、みんながみんな、私みたいな考え方では無いので、問題が生じるからだ。
こんな性格なので、私は優柔不断なのだ。
「そろそろふたりを起こして、夜食買いに行こうよ」
アキが言った。
「そうだね……ミユ、Hちゃん。おやつ買いに行くよ、起きて起きて!」
ふたりを起こすと、4人でコンビニに出かけた。
「白線の上を歩いてるんだけどね。真っ直ぐ歩けないんだよ。わたしが変なのか、白線が変なのか」
私はアスファルトに引かれた、白線の上を歩いていた。
「間違いなく、君が変なんだよ」
アキが冷静なツッコミを入れる。
「モモちゃん、車に轢かれないようにね。死んじゃうから」
ミユがニッコリ笑っている。
「モモちゃん大丈夫?」
Hちゃんがそばに駆け寄ってくる。
「私は今、人生ではじめて千鳥足というものを経験しているよ」
そう言った私の、肩をHちゃんが引き寄せる。反対の手は、私の手を握っていた。
「ありがとう」
私の言葉に、Hちゃんは、いつものような優しい笑顔を浮かべていた。
Fin.
『手をつなぐ』 ヒニヨル @hiniyoru
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