隙間2
彼はいつも授業をサボっている。
私が初めて授業をサボった時も、今も。
美術準備室へいくと、真っ白なキャンバスの前に、ただ座っている。
「...描かないの?」
「うん。心の中では描いてるよ。」
「ふーん。変なの。」
「変かな?」
「ちょっとね。」
心の中で描いた絵は誰にも見えないし、ちょっと、いや、かなり変なやつだなと思っていたけれど、彼との会話は心地いいので細かいことは気にしない。
「なんで描かないの?」
「心の中で描いてるって。」
「なんで描かないの?」
ふざけた返事をされたので、無視して再び質問する。
「...そうだなぁ。僕、絵は下手だからな。心の中ではめちゃくちゃすごい画家になれるけど、実際に描いたら普通だなって思っちゃうし。」
「絵、下手なの?」
「うん。」
いつもキャンバスの前に陣取ってる癖に、絵は下手なのか。なんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。笑うなよ、と少しむっとした彼に小突かれる。
「じゃあ、私が教えてあげようか。」
「え、君、絵が上手いの?」
「まぁまぁね。」
それから、初めはノートに描いて練習し始めて、卒業までに作品完成を目指すことになった。
「ていうこともあったねぇ。」
「急になによ。」
そんなこともあった僕らの学生時代。今じゃ僕は画家として生計を立てているし、彼女は僕のアシスタントをしている。
「で、ドレスのデザインはしてくれるの?くれないの?」
「僕、デザイナーじゃないんだけど...。」
「自分の妻になる人のドレス1着くらい、自分でデザインしようとか思わないの?」
「えぇ...。」
彼女に押し切られるように、ウェディングドレスの資料を大量に渡される。
「あなたのデザインしたドレスが着たいの、お願い。」
「えぇ...。しょうがないなぁ...やるよ。」
「やった。勝った。」
「勝負だったの?」
なんだか釈然としないまま負けたことになってしまった。僕は勝負してないし。
まぁ、自分でデザインしたドレスを着てくれるなんて、ちょっと嬉しいしやるけどね。
そんな、いつも通りの1幕。
隙間に読む恋のお話 粋羽菜子 @suwanako
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