第2話

 オニゴロシは父の妾のうち三人を選び、孕ませた。どれもオニゴロシと同じ年齢だった。その他にも何人もの女を愛人にしているが、その名を父は知っていた。

 オニゴロシは自身の死を確信してから十三年間、放浪した。盗賊を殺し、害獣を殺し、妻を殺し、子を殺した。しかし、それは義務付けられた救済の手段ではなかった。盗賊も害獣も妻も子もすべて父は知っていた。父にとって約束された殺戮だった。

 父からのメッセージは気がつくといつでも来た。

 その形は手紙だったり遠吠えだったり夢だったり光だったりして、世界中に散らばった父の子孫がオニゴロシの動向を見ていることを知らせた。そして、オニゴロシへ「異世界転生」することを強要するのだが、その方法がわからないままオニゴロシは酒を浴びた。

 オニゴロシが子を殺すたびに妻は増殖した。

 最初に見初めた妻は天文学者だった。その頭脳は極めて明晰で、天球に貼り付けられた星星が父の「チート能力」によって支えられていることを美しい式で証明した。妻は父の「異世界転生」以前に世界は存在しないことを証明したが、それは単なる信仰告白として捉えられ他の学者から一笑された。

 その妻との子が「チート能力」に芽生えた時期はオニゴロシが死んだのと同じ年頃だった。父はその子を殺し、「異世界転生」させ、世界を救済することを望み、オニゴロシはそれに則って短刀で子の心臓を挿した。オニゴロシは殺人に慣れていたので即死させた。子は苦悶と歓喜の表情を浮かべて血溜まりの中に肉体を倒した。

 父の名に反することはすなわち「チート」であった。オニゴロシは今でも殺してきた人たちの「チート能力」が何だったのかわからない。実子たちも例外ではなく、ただ世界に必要なプロセスとして要請されたものだった。

 祭司である妻は死体の瞳孔を確認すると、確かに「異世界転生」を果たしたと伝えた。その子は「チート能力」でもって「ハーレム」を築き、「異世界」を救済することを約束した。

 物理学者の妻は、「異世界」に懐疑的だったが、別の物理法則が支配する世界の存在は認めた。光が逃げ場を失う暗黒の重さの向こうで「チート能力」は発揮されると考えていたので、しばしば天文学者の妻と対立していた。そういう日はその二人と姦淫すると対立は収まった。

 オニゴロシは常に不審者を探し続けた。父の名を知らぬ「チート能力者」。しかし、それは父が先に存在を悟り、転生の命令を下した。オニゴロシの射精もすべて父は知っていた。

「義務?」

と寝床で天文学者の妻が問いかけたが、オニゴロシにはその意味がわからなかった。

 占術師の妻は言った。

「私の未来はチートじゃないの。あなたの父上が知っているから。なら私がしていることは何?」

「私の名は酒を呑むゆえにつけられた。過去が父の名の下にあるから同様に未来もそのようにある」

とオニゴロシはそう答えたが、未だに「異世界転生」を果たせない自分が父のコントロール下にないことは半ば感づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界チートハーレム 上雲楽 @dasvir

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ