第44話 空のバンディット
「ありがとう……ございました」
雛菊黄色の言葉に、瑠璃が嬉しそうな表情を見せる。
「なにニヤついてるんですか。殺されたいんですか!」
「なんで俺?」
佐藤に針を向ける雛菊黄色と、それを必死になだめる雛菊瑠璃。そんな二人の頭を、こつんと誰かが小突いた。
「お前ら他の客に迷惑。炎上するぞバーカ」
「うへぇ、痛いよぉ」
「ぐ、正論辞めてもらっていいですか?」
二人から睨みつけられた男は、もちろん野辺地学だ。彼はトレーいっぱいにハンバーガーを乗せていた。
「ほい、もっと食え食え。今日は佐藤の奢りだ」
「わぁい!」
「やった!」
即座に二人の表情が明るくなる。現金な奴らだ。
「それで、佐藤くんはこれからどうするんだ?」
野辺地学は佐藤の隣に座ってハンバーガーに手を伸ばした。
「そうですね……さすがにもう、大学生には戻れないでしょうし」
「ま、戻れないだろうな。俺たち指名手配犯みたいなもんだろうし」
表情の暗くなる男二人を見ながら、黄色がハンバーガーにかぶりつく。
「はむ……安心して……いいですよ。もぐもぐ。あいつらそれほど規模は大きくありませんから……一か所にとどまることは危険ですが、移動さえしていれば捕まることはありません。警察を動員することも基本ありませんし、明確な犯罪さえしなければ大丈夫です」
「でも、罪でっちあげて追いかけてくる可能性とかないのかよ?」
「大丈夫です。そんなことしたら警察が追いかけてくるじゃないですか。で、魔法の使えない警察官とぼくたちが交戦してみてくださいよ。どうなると思います?」
佐藤と野辺地は顔を見合わせた。佐藤がぽつりとつぶやく。
「大ごとになる」
「そうです。あいつらは魔法という存在をまだ秘密にしていたい。だからぼくたちに暴れられたら困るんです。ぼくたちの事は秘密裏に処理したいはずなんですよ」
「ってことは、俺たち割と普通に生活できるってことか!」
「まぁ、旅人みたいな生活になりますけどね。おかわりください」
「はぁい、きぃちゃんどうぞぉ」
「るりちゃん、ありがとうございます。はむっ。……そしてぼくたちの目的はあいつらから魔法についての情報を盗めるだけ盗んで」
「将来的に魔法革命を起こすことぉ」
雛菊姉妹が悪い表情を浮かべた。
「なるほど、それでバンディット側もまだ大々的に活動することはできないと」
佐藤の言葉に黄色は頷く。
「えぇ。ぼくたちはここぞというタイミングで大革命を起こします。だからデモや暴動をするつもりはありません。血を流さない革命です。全日本人に分け隔てなく魔法を与え、差別をなくすことが目的ですから」
「まぁ、武力には武力で対抗するけどねぇ?」
「それで、優介さん、野辺地学さん、二人はこれからどうするんですか?」
黄色の言葉に、佐藤は即答する。
「俺は君たちと一緒に行くよ。魔法についてもっと知りたいし、何より差別をなくすための戦いに、俺も参加したい。田舎出身として」
野辺地は少し悩んでから、スマホの画面を操作する。
「俺は、バズったら何でもいいかな。でもよ、お前たちと一緒に行動してたら、くっそバズりそうだなって思う」
野辺地がそっとスマホ画面を見せた。そこには、日下部と戦う佐藤の姿が映っていた。
「最初はCGとして、世に出してこうかな。そしていつかいうんだ。あの動画は作り物ではなく本物の魔法です。魔法商品のプロモーションビデオですってな。実在する技術です。って」
「それ、面白そうですね!」
黄色の目が輝く。
「だろ、だから俺もあんたらと一緒に行くよ。カメラマンは、必要だろ?」
ニヤリと笑う男に、瑠璃が釘を刺した。
「魔法を戦闘の道具っぽく宣伝したらダメじゃないかなぁ? 争いの火種になる気がするんだぁ。むしろもっと、楽しいのがいいなぁ」
「言われてみれば、確かに」
野辺地が自分の顎鬚を掻く。その姿を見て、佐藤はハッとした。
「ならさ、魔法を使えばもっと生活が便利になるって感じのライフハック動画作ろうよ」
彼の言葉に、一同が首を傾げる。
「今現存する魔法の杖は明らかに武器だ。攻撃を目的として作られてる。だから、それをもっと優しい使い道にできないか。そこからが俺たちの進めるべき道じゃないかな? 例えば黄色のポーチ、今は鋭い金属しか作れないけどさ、もっと扱いやすい裁縫道具が作れたら便利だと思わない? なんか、もっと生活を豊かにするような魔法って作れないかな?」
「それって、どうやるんですか? ぼくたち科学者じゃありませんよね?」
黄色の問いかけに、佐藤はにやりと笑う。
「魔力委員会から、引き抜くんだよ」
「……なるほどな」
「へぇ、良いじゃぁん」
「面白そうですね」
その日、無血革命を掲げる無法者が誕生した。噂によればその男は、まだどの純日本人魔法使いでさえ扱ったことのない、空の魔石虫を持つ
空の魔石虫と二人のバンディット 野々村鴉蚣 @akou_nonomura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます