第37話 最高幹部会・六妃会談
首都、
黒皇城は、世界一硬い鉱石――
人口が最も多いのは、他種族に与えられる市民階級の八万人。次に人口が多いのは、龍人女子に与えられる
六妃にはそれぞれ序列が決められており、高い順に、
六妃は群れの中核を成す、最も高貴な称号である。
もしも、群れの最高幹部たる六妃が一同に会すとすれば、それは重要案件の会議か緊急事態のどちらかを意味する。
そして今まさに、その緊急事態が発生していた。
◇◇◇◇◇
大都市・
高い壁で仕切られた各宮殿の最奥部にあるのは、龍皇の居所である
楼閣宮、会合の間。
室内には
「あなたになら
叱責というよりかは失望を隠せない声色に、
「申し訳ありません、
末席に座る
「あらあらぁ♪ 部下の不始末は上に立つ者の責任……などと考えているのかしら。部下を罰せば終わる話ではあるのにぃ」
仁妃は司法機関を統括している。法の番人とは思えない軽薄なねっとりとした口調で、部下を切り捨てろと安直な誘惑を囁いてくる。
騙されてはいけない。これは罠である。
(バカにしないでほしいものね。わが身可愛さに直属の部下を罰すれば、信用を失うのは私だってことぐらいわかるわ)
取り合うことなく、青蘭がギロリと睨みを利かせると「あら、怖い♪」と
その茶番を前に、大きなため息をついたのは序列第五位の
「黒陽公主の足取りは初日から不明だったのだろう?」
領土内の治安維持部隊を率いる
だが、いくら不服であっても非は学園の管理者である青蘭にある。今は
「はい。部下からはそのように報告が上がってきています」
呆れたように
「ふん。話にならんな。公主は各種権限こそ持たないものの、身分は母親の位を引き継ぐんだぞ。黒陽公主の場合は、将妃相当となる。特別な配慮をして当然だろう」
ぐっと唇を噛んで、青蘭は辛抱強く答える。
「特別な配慮とは、いかなる対応でしょうか」
ハッと鼻で笑った
「そんなもの決まっている。点呼時点で黒陽公主が不在だとわかったのなら、その日の内に捜索するべきだ。これは
それは一見すると筋が通っているようにも思えるが、龍人族の常識に照らし合わせるなら暴論であり、学園を取り仕切る青蘭を軽視する発言にも等しかった。
なぜなら、学園内部は完全に
「夏季特別実習は本陣の近くで行われる
「ほう、それで? 森の奥地へ自ら踏み入った黒陽公主の自業自得だとでも?」
恩人である将妃の手前、黒陽公主の自業自得だ、などとは言えない。表情を硬くした青蘭が答える。
「無論、付近の捜索は行いました。ですが獣王の森は広大です。なんの手がかりもなく探すことは不可能でしょう。それとも
生真面目な
が、
「居場所がわからぬのなら生徒を使って広範囲を捜索させれば良いだろう」
「そんなことをすれば、夏季特別実習が立ち行かなくなります」
「別に構わんだろう。黒陽公主の安全と比べれば些末なことだ」
「そんな無茶な!!!」
青蘭は、龍皇の群れに入って高々十年程度の新参者である。
対して、他の妃たちは群れ旗揚げ時の創設メンバーであり、付き合いは数百年にわたり、絆も深い。新参者の青蘭が、自分たちと同じ六妃に治まっていることが納得いかないのか、顔を合わるたびにきつい言葉を浴びせられる。特に今回は、青蘭に非があるということもあり、理不尽を押し付けられても強くは出られない。
と、そこで仲裁する形で口を開いたのは、今まで沈黙を守ってきた最後の一人。内政を司る
「
「ですが――」
勢いを削がれ、不服そうに口を尖らせた
「今回問題だったのは、現地調査不足及び、教師の武装に不備があったことよ。それ以外に問題はなかった。これはあなたも同じ意見でしょう」
「その件についてはもういいわ。学園という群れから離れて行動した以上、一切の責任は
ギクリ、とうつむいていた青蘭の表情が固まった。
頭上から、美しい声が降ってくる。
「聞けば婚約したのは下院の生徒。それも適性属性なしの半龍人だという話じゃない。いくら自由恋愛だといっても、物には限度というものがあるわ。ねえ、あなたもそうは思わない?」
「わかっております。その件につきましては、私の方でなんとか調整するつもりでございます」
パッと華やぐように将妃の美貌が輝いた。後光が差したかのような眩しさに、青蘭は頬を赤らめ、上げかけた顔を戻すしかなかった。
「さすが青蘭。私の見込んだ人材ね。話が早くて助かるわ」
魔性の女。黒陽公主の母親は、娘以上に人心を惑わせる美貌を持っていた。
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六妃や姫位六階級についての補足(近況ノート)
興味のある方は覗いてみてくださいね。
【設定解説】身分制度について
https://kakuyomu.jp/users/hinotama/news/16818093076494354860
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