6 対面

エジーの研究は支援により短期間で飛躍的な進歩を遂げていた。

そのおかげもあってエジーとアリサへの恩返しのつもりで被検体になる事を選んだ。

今日は実験の説明会でイヴァーグの代表、フーチ・イヴァーグとの対面だ。


「では、説明をしよう。今回、被験者になってもらう訳だが、君の前頭葉を移植させてもらう予定だ。前頭葉とは君の感情や思考を司っている部分であり…」


「そんな難しい事、俺にはよく分からん。とにかく俺のものを俺には移すだけなんだろ。何にも問題ないなら手早くやってくれ。」


「ふむ、説明するのも一応義務なのでね。人体への実験となると、どんな事が起きるかも分からない。何せ人間の潜在能力を引き出すものだからな。君が突然、超能力に目覚めてしまうことだってあるわけなのだから。余談は置いておいて、説明を続けるぞ・・・」


難しい話はよく分からない、といった感想だった。

要約すると実験が終わった後は軽い軟禁による経過観察。

モルモットと変わりはしない状況に置かれるようだ。

答えは変わりはしない、全てを承諾した。


「話が早くて助かるよ。ではここからはまったく別の話になるが、君はグレイブという組織を知っているかね。」


「そんなもの知らん。俺は単なる荷物番だ。」


突然、ずっと探し続けていたものに手が届く予感がした。

冷や汗と期待が顔に出てしまう。


「おやおや、そんな怖い顔して睨まないで欲しいな。君が我々の実験体を駆除した事について、とても興味関心を抱いているのだよ。」


目の前に放り出される数々の証拠写真。鮮明に自分の立ち姿が写っている。

逃げ場はこいつを殺すこと以外にない、死の予感がする。

懐に手を忍ばせる。


「警戒しないで欲しい。別にこれからの実験で君をあの怪物に変えようって訳でも、口封じで殺すつもりも本当にない。君はあの時、何故あの怪物を倒そうと思ったのかね。」


「生き残るためさ。ただそれだけだ。」


こいつに俺の背負った物を話すつもりなんかはない。最もらしい理由付けをした。


「勇気のある人間だね。土壇場でこそ人間は力を発揮する。それを体現した様な人間だね、君は。

そんな勇気ある人間が、グレイブの実験体となってくれて感謝の極みさ。さぞ君は我々の良い兵器になってくれるだろう。おっと、銃なんか出してくれるなよ、もう既に監視は始まっているのだからね。それに君にとってのラスボスは私なのだから、ここで殺しちゃつまらないだろ?では、実験開始といこうか。」


嵌められた。いつからだ?

探し求めた本命が、目の前にいるのに身動きも取れないまま実験室へ向かった。




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