かくれんぼ

香久山 ゆみ

かくれんぼ

 昨日の台風が嘘みたいに晴れ、夏の日射しが強い日だった。

 大人は飛ばされた屋根の修繕など大わらわで、子供は邪魔にならぬよう近所の神社に集まって遊んでいた。

「あれ、開いてる」

 誰かが発して皆が振り返ると、いつもは分厚い板の上に大きな岩を載せて固く閉ざされているはずの、井戸の蓋が開いている。少し離れたところに岩は転がり、板は見当たらない。台風で飛ばされたのだろう。

 井戸には近付くなと言われていた。けれど、今日は止める大人もいないから、わらわら皆で井戸を囲んだ。

「なんだ、何もないじゃん」

 最初に覗いたタケミチが言った。それで皆も井戸を覗いた。

 厳重に封印せられていたため、底なしの暗い井戸を想像していたが、違った。底は目と鼻の先だった。当時低学年の僕でも上がれそうな浅さに小石の敷詰められた底があった。

 口々に拍子抜けだと言い合っている間に、誰かが藪の中から板を拾ってきた。蓋をし、岩は少年五人がかりでなんとか持ち上げることができた。よいしょ、蓋の上に岩を置いた拍子にタケミチの胸からころんと何か転がり、そのまま板の隙間に落ちていった。誰も気付いていないようだった。僕も何も言わなかった。また拾うために蓋を開けるとなれば、大人に見つかり叱られてしまうかもしれないから。

 夕刻、かくれんぼをしたが、最後までタケミチが見つからない。散々探した末、きっと先に帰ったのだろうと解散した。

 しかし、彼は帰宅しておらず、夜半にタケミチの親から各家庭に連絡があった。僕はなんとなく井戸のことがぎったが、黙っていた。かくれんぼの時にも、井戸の上にはあの岩が載っていた。一人でそれをけて井戸の中に隠れるなんてできるはずがないのだから。

 懸命の捜索にも関わらず、彼は見つからない。二日経ってようやく僕は井戸のことを告げた。大人も半信半疑だったが、念のためと井戸の蓋を開けた。変わらず、浅い砂利底があるだけだった。

「ちゃんと一番底まで探してよ!」

 まったく覚えていないが、僕は繰り返しそう叫んだらしい。

 その様子が尋常でなかったため、大人達は井戸の砂利を浚った。すると、いくらでも小石が出てきた。結局、光が当たらぬほど深い場所に井戸の本当の「底」があり、白骨化した少年の死体が見つかった。

 その白骨がいつの時代の誰なのかは分からないし、井戸が石で塞がれた理由も不明だ。

 三十年経った今もタケミチは見つからない。

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かくれんぼ 香久山 ゆみ @kaguyamayumi

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