復讐勇者~人族を見限った勇者の話

山田 勝

復讐勇者

 俺は、勇者殺しのサムソン。この世界では知らぬ者はいないほど有名人よ。

 もう12年経ったか?暴走した勇者ケンジと一騎打ちをして、倒した強者よ。


 以来、

 生涯、武芸死合い5000勝更新中!この国の将軍までなった。


「チィ、チンタラ、歩いてやがるな」


 と繁華街が混雑していることを嘆けば、

 部下が気を利かせて、声をあげてくれるぜ。


「おら、おら、勇者殺しのサムソン様のお通りだ!どけ!」


 サムソンってな名前はありきたりだ。サムソンって名の男はごまんといる。


 だから、勇者殺しのサムソンってな通り名にしているのさ。俺の装いは、顔面に入れ墨を入れ、胴鎧を着込んでいる。このガタイの良い体格に、右手にはガントレットをつけている。

 逆らう奴には鉄拳制裁さ。

 見た目で一発で分るようにしている。

 だから、俺にケンカを売ってくる者はいない。

 いたら、よほどの田舎者だ。


 俺は領地無しの雇われ将軍だが、懐具合はいい。



 勇者討伐の話を吟遊詩人に唄わせ


 本を出版し


 その上納金が入ってくる。ウハウハさ。


 人生は絶好調だ。


「おい、野郎ども、今日はお姉ちゃんのいる店でパーと飲むぜ!」

「「「おう」」」


 暴虐のサムソンが通れば、皆、道を開けるが、普通に通行している荷馬車がいた。


「うん?!おい、おい、そこの娘、道をふさぐな!」

「この方は、勇者殺しのサムソン様だぜ!」


 ・・・道の真ん中で俺様の通行を妨げていやがる。迷惑だぜ、ロバに引かせた荷馬車の御者台に、ローブを羽織った少女に、初老の男?

 親子か。


 おっ、マジかよ。荷車に、一目で高純度と分る魔石や、高級素材・・・あれはドラゴンの牙?

 金貨の袋まで、見えるように積んでいるぜ。

 勇者討伐の後、何故か、魔法が使えなくなった。だから、魔石は、喉から手が出るほど、どこも欲しがっている。


 いくら、王都の治安が地方よりもマシだからって、この夕暮れに、こう開けっぴろげにお宝を積んで通行しているとは・・・それに、俺を知らないとは、よほどの田舎者に違いない。

 こいつは、頂くしか無いな。

 衛兵隊も俺の傘下だぜ。


「おう、俺は勇者殺しのサムソン将軍だ!その荷は怪しいな。盗品かもしれない。だから、荷を没収するぜ!ロバと荷車ごと寄越してもらおうか?」


「・・・・・フッ、み~つけた」


 と少女はサムソン達に、聞こえないぐらいの声で、ボソリとつぶやいた


 ローブで、目が隠れている少女の口角が喜びで思わずあがる。


 ニヤ、としたように見えた。


「あ~あ、こいつ、気がおかしくなったか?」


「俺のお相手をするには、幼いな。後五年したら、抱いてやるぜ。だから、お宝をよこしな!」



 ☆☆☆王都裏組織フランク商会


「大変だ!親分!ニューホテル通りで、サムソンが、旅人の親子に、無体を働いているって、報告がありやした!」


「な、なんだと、勇者殺しのサムソンか?間違いないか!」


「はい!顔面入れ墨に、胴鎧、ガントレットをはめてやがります。鉄拳使いのサムソンに間違いないって、目撃者が言っています!」


「いくぞ。今、ここにいる者は全員、俺についてこい!」

「「「ガッテンだ!」」」


 チィ、また、俺の縄張りで無体を働いてやがる。

 この前も、土下座をしておさめたがよ。

 全然、大人しくならない。


 奴は裏組織に所属していない表の人間だ。

 だから、話のつけようもない。

 表が、チンビラみたいな悪さをするなんて、世も末だぜ。


 奴は、俺の土下座した事を、サムソン武勇伝として、金を払ってまで、吟遊詩人に唄わせてやがる。

 おかげで、土下座のフランクと二つ名が付いた。


 いや、それはいい。

 しかし、子供を巻き込んではいけないだろう!



 しかし、その土下座の評判が、逆に、フランクの名を高めたことを、彼は認識していない。

 あのサムソンから、庶民を守った。まさに、任侠よと、


 ・・・着いたぜ。あの人だかりがそうか。


「おっ、野郎ども、野次馬をのけろ。俺が土下座して、話をつけるぜ!」


「「「ヘイ」」」


 しかし、異様さに気が付く。


「野次馬が、皆、黙りこくっている。まるで、お通夜のようだ」

「おい、野次馬、フランク様が場を納めに来た。どけろ!」


 人ゴミをかき分け。目にした光景に絶句する。


「ヒィ、やめて、やめて、シュンやドスンは、もう、やめて、もう、戦えないから!」


 ・・・あのサムソンが、建物の壁に頭をつけブツブツ叫んでいる。背中を見せて、戦えないアピールか?

 手下どもは、ノビている奴もいれば、腰を抜かして、失禁している奴もいる・・


「何が起きた?」

 野次馬に問うた。


「あのサムソンの鉄拳をよけて、あの少女が・・拳を当てたんでさ。シュンやドスンと音が聞こえて・・・」


 少女は野次馬に関心を示さずに、


 シュン、シュンと少女は、空気をきるよな鋭さで空に拳を放っている。


 シュールな光景だ。


 少女は、サムソンに話しかける。


「これでジャブの感覚がわかったわ。・・・・ねえ。おじさん。本当は戦ったことないんでしょう?」


「ヒィ、俺は、5000戦無敗のサムソン・・・なんだ」


「ハンス爺、こいつは、違うかな」

「ええ、違うでしょう。こんなチンビラに勇者ケンジ様が負ける事はあり得ません。もう少し、痛めて大口をたたけないようにしては如何でしょうか?」


「ううん!いっそのこと殺す」

「それもようございます。全ては、勇者様の御心のままに」


 ・・・勇者、この爺さん。今、勇者と言ったか?


 風が吹いた。

 少女のローブがはだけた。

 髪と顔の上半分が晒された。


 フランクは、思わず声をあげる。


「黒髪、黒目、勇者・・・異世界人だ!」


 ・・・こいつは不味い。


 俺は少女に土下座をした。


「待ってくれ!俺のところに、客人としてきてくれ!

 サムソンを殺すのは待ってくれ!」


「うん?あなたは~だぁ~れ?邪魔するの?」


 圧を感じる。ヤバイ!

 ここは、更に、土下座寝!


 石畳の道に、仰向けに寝て、腹をさらす。

 犬がやる仕草だ。


「好きにしてくれよ。もう、こうするしかないけど、暴れるのは止めてくれよ!」


「アハハハ、おじさん面白い。ア~ハハハハハ」



 ☆☆☆フランク一家


 俺は、食事を振る舞い。

 少女を一番上等な部屋をあてがい。寝かせた。

 きけば今日13歳だそうだ。

 就寝が早い。


 俺は少女の連れ合いの男に、酒を勧め。話を聞こうとした。


「いや、酒は、明日、作戦決行日なので、お茶を頂ければ」


 丁度、13年前に、勇者討伐がされた。

 それはこの国の者なら誰でも知っている話だ。

 以降、この大陸で、勇者召喚が出来なくなった。

 女神様のお怒りを買ったとのことだ。


「勇者パーティには、勇者ケンジ、聖女サユリ、賢者ローズ、剣聖ロドリゲス。聖騎士デービット・・・そして、私、ポーターのハンスがいました」


 ・・・何だと、このおっさんが、勇者パーティの生き残りだと。

 なら、あの少女は、


「勇者ケンジ様と、聖女サユリ様のお子です・・勇者討伐の当日に、お産みになりました。戦場です。産後の状態が悪く。お亡くなりになりました。

 ケンジ様とサユリ様に託され、その子は、私の一族がお育てしました」


 ああ、賢者の後ろにはこの大陸の魔道研究ギルド、剣聖には、剣術ギルドが付いている。聖騎士には女神教会だ。

 そして、ポーターには、


「ええ、冒険者ポーターギルドが付いております。

 皆、勇者討伐には怒りの頂点に達したものです。しかし、各ギルドは政治には関与できません。支援しか出来ないのです」


 俺は注意深く聞く。言葉を誤ったら、死ぬかもしれない。

 勇者討伐、公式には、勇者ケンジは、倫理チートにかかって、王政打倒を呼びかけたので、やむなく討伐したとのことだが、


「討伐の真相をお聞きしたい。俺だって、この腐った国の上層部の言うことを真に受けるほど、間抜けではありませんぜ」


「ああ、それは、魔王討伐した直後に、この国の王が、邪な考えを持ったのだ。

 如何に、勇者が強くても一軍は相手に出来まい。

 勇者パーティに渡す報賞金が欲しくなったのでしょう。無理難題を吹っかけて、勇者パーティだけで、そのまま魔族の全滅を命じました。魔族領は広大です。それは事実上不可能な命令ですし、魔族を圧迫しすぎると、強力な魔王が誕生します」


 勇者パーティは、最期まで、戦いました。しかし、回復役のサユリ様がお亡くなりになり。

 剣聖と勇者には、重武装の騎士団。賢者と聖騎士には、大規模魔法を使う魔導師団が襲い掛かり。


 結果は、


「ああ、知っているぜ。この国の国軍が壊滅状態になった。サムソンが軍幹部になるくらいだからな・・・」


「ええ、あの男は雑兵でしょう」


 ・・・畜生、そうと分っていれば、やりようもあったのに、あのフカシ野郎め。


 国軍は、約3000の戦死者、ただの兵士ではない。精鋭部隊を失った。

 しかし、3000人だ。

 勇者パーティは、精鋭3000人分の戦力だとも評価されるようになった。


 しかし、


「ええ、あの後、いくら、魔族と戦っても勝てなくなった。不思議でも何でもありません。何せ。勇者とこの人族の魔法のシステムはセットだったと判明したのです」


 もう、この人族の世界では、魔石を原動力とした魔道具しか使えない。

 魔導師は力を失い。

 回復術士は回復院をたたみ。聖女はシスターになった。


 世界各国が、この国を恨んでいるが・・・魔族と国境を接している国だ。

 表だって、討伐はされないが・・この国は孤立している。


 俺は引っかかることを聞いた。


「ハンスさん。作戦って何をなさるのですか?」


「はい、敵討ちです」


「なっ」


 思わず絶句した。


 勇者パーティですら、3000人の軍が必要だった。裏を返せば、軍隊で討伐出来る。


 いくら、少女が勇者でも、聖女も、賢者、剣聖、聖騎士もいない。

 それに、この国にも、魔道砲の開発がされ、騎士も育ってきている。

 万を越える軍勢が健在だ。


 俺は不利を訴えた。

 しかし、一笑に付された。


「フフフフフ、勇者の世界では、進化という概念があります。ええ、意味は深くて、一言では申し上げられませんが」


「しんか?」


「ええ、3000人の軍勢で負けたのなら、万、10万、100万の軍勢に勝てるようになればいい。

 彼女一人で、勇者パーティの機能を備えています。

 それに、かの国の騎士団を呼び寄せることが出来ます」


「かの国の騎士団だと・・」


「ええ、魔族領の暴竜すら、一撃で仕留める軍隊です」


 ・・・だから、高純度の魔石に、ドラゴンの牙まで、持っていたのか。

 しかし、俺は取りあえず止めるように説得する。


「ハンスさん。明日どうするかは、朝、相談しましょう。サムソンは一応、この国の将軍だ。お逃げなさい。力を貸しますぜ」


 その時、見張りに付いていた手下から、報告が来た。


「親分、屋敷を囲まれています!軍隊ですぜ」


 ・・・夜襲はあるまい。日が昇ったら攻めて来る流れだな。


 しかし、ハンスは平然として、答える。まるで、勝つのが当然のようだ。


「そうですか。早まりますが、出撃しますか」


「爺、外が騒がしい・・」


 少女は、いつの間にか、起きていた。


「爺、敵来たね。英雄召喚をするから、フランクさん。中庭を借りるよ」


 ・・・フランクさん・・と呼んでくれたか。彼女の名前を知らない。まるで、そんな俺の心を読んだように、彼女は答える。


「私はアキ、母様が名付けてくれた。父様の名字をもらって、アキ・ニッタ、ロバはドロシーちゃん。ドロシーちゃんの保護をお願いします。

 代価・・・は・・・荷馬車の魔石と素材の所有権を譲渡する・・正統な、有償寄託契約・・」


 ・・・急に、まともな話し方になったが、気のせいか。言葉が片言になっていくような気がする。


「あ、爺、ハンス・・爺、大事な家族、保護・・お願い・・する。ます」


「ええ、私はお役には立てません。ここで、待っています」


 アキは、中庭に行き。

 魔法をかける。屋敷全体に魔法陣が浮かび上がった。


 もう、この世界では、13年、目にしていない光景だ。


 アキは詠唱する。


「英雄召喚!自衛隊普通科本部管理中隊と三個小銃小隊!一個迫撃砲中隊、ヘリボーン作戦機能付きレンジャー部隊、一個戦車小隊、召喚!!配置まで!」


 ・・・何だ。この言語は、聞いたことのない言葉だ。


 魔法陣から、大勢の青く光る人族が現われた。

 皆、まだら模様の服と鉄兜を被り。杖のような物を持っている。


「黒目か・・」

 髪は鉄兜で見えないが、恐らく黒髪だろう。少女と同じ人種だ。


 彼らは既に、屋敷に、散らばっている。凡そ、200名か・・・


 一人の青く光る壮年の男が、少女に報告する。


「戦闘団長!編成完結式は省略!配置完了!」


 少女が、まるで、軍隊の指揮官のように、何かの報告を受けたように見えた。言語が分らないが、そう感じた。


「命令下達、敵情不明、我、一個戦闘団で、王を捕獲せよ!補足、以後、作戦行動が終わるまで敬礼省略!」


「敵情、不明!我、一個戦闘団で、王を捕獲せよ!敬礼省略!了解!」


 壮年の男は、命令を復唱し、更に部下に命令を下す。


「夜戦!閃光弾準備!各自暗視眼鏡を装着!」

「情報小隊!・・・」

「補給小隊は・・・」


 ・・・異世界の兵士が、少女に、イスを勧める。


「いい。戦車に乗ります」


 やがて、外で、雷の音が聞こえて来た。


 パンパンパン!


「「「「ギャアアアアアアアアアーーー」」」


 悲鳴が聞こえる。


 正直に言う。怖い。屋敷の外の様子を見たくない。

 光る何かが、飛び交っている。


 ドドドドドドドド

 まるで大型の地竜のような地響きが聞こえる。


 鉄の地竜が、門の前に現われ、少女はそれに乗って、王城方向に去って行った。



 ☆次の日


 少女は、冠を被った男の・・・クビを持って来た。


「ヒィ、それ、見たこと無いけど、絶対に王だろう!」


 王城を見たら、煙が出ている。


 これから、どうなるのだろうと思っていたら、


 騎兵の馬のいななきが聞こえた。大軍が来ている。


「聞け。これより、我がノース王国が、この国をしばらく統治する。抵抗しなければ、殺さない。盗む、殺す。犯す禁止だ!」


 あの爺さん。外国と通じていたな。隣国に占領された。


 聞けば、生き残った王族は、王宮を追われ、新たな王が、この国の貴族から、即位すると言う。


 新たな王族は、勇者討伐に反対し、辺境に追いやられた元公爵家の一族が、王族になるそうだ。


 そして、宰相は・・・


「フランク殿、宰相を任じる!」


「は、無理です!」

「分っている!しかし、勇者殿の意思を尊重しなければいけない」


「ええ、アキ様、酷いですよ」


「フフフフ、一食一宿の恩ね。だから、何か困っている事があったら、助けるね」


「はい、はい、そりゃ、有難いこって」


 フランクは気が付かない。元々調整能力に長けていたことと、いつの間にか、勇者と普通に会話していることに、

 各国は、少女と会話をしたがっていた。しかし、会話まで出来るが、意思疎通まで取れていない。

 何故なら、彼女は、父、母の敵として、人族を恨み抜いていた。


「で、勇者様とハンス様は如何されるのですか?この国に滞在をされますか?」


「・・・勇者は旅をして、仲間を集めるもの。そして、悪者を退治する」


「魔王じゃないのですか?」


「いや、私、魔王ですよ。魔族領で、暴竜を討伐したから、各部族から、推薦された。形だけどね」


 ・・・と言うことは、魔王は魔族の戦長、人族が、魔族領を大規模に侵攻したら、あの100万の軍勢を倒せる異界の軍勢が来るのか・・・


「ヒィ、もう、止めて下さい」


「だから、人族の世界を旅して、人族の中の魔王を討伐する。魔族勇者だよ。人族の勇者は、魔族領で魔王を倒すのだもの。

 魔族勇者が、人族の中を旅して、人族の魔王を討伐しても良いでしょう」


 ・・・俺は思わず。ハンスさんに聞いた。


「ハンスさん。これいいのかよ?」


「ええ、私は、勇者様の御心のままに付き従います。しかし、人族の世界は複雑です。勇者様には学んで頂く必要がございます」


 ・・・それしかないだろう。


 アキとハンスは、ロバの荷車に乗って、人族の世界に旅立った。


 それから、魔薬組織や児童売春組織・・・などが、壊滅した話がこの国にも聞こえて来たが、


 未だ。魔法は使えない。

 女神様の怒りは深いようだ。




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