第30話 エピローグ

ユグレイティの地の魔王カミュスヤーナは、案内をしてくれたヴァルッテリが大きく扉を開くのを、言葉なく見つめていた。カミュスヤーナの隣には、伴侶のテラスティーネが彼の前腕に自分のものを絡みつかせて、立っている。

ヴァルッテリが室内に入るよう促すと、2人は並んで足を踏み入れた。


広い部屋の中央には大きな円卓が置かれ、そこには2人の人物が腰を下ろしていた。

一方は青紫の髪、銀の瞳の青年、一方は白い髪に紫の瞳の少女だ。

2人ともカミュスヤーナとテラスティーネが入っていくと、席をたち彼らの元に歩み寄った。


「ご足労いただき感謝する。」

「この度はお二人に大変申し訳ないことをいたしました。お許しください。」

ここハンニカイネンの地の魔王ラーファエルとイヴォンネが、それぞれ言葉を口にして頭を下げた。


「もう過ぎた事ですので、構いません。」

「イヴォンネは、体調は如何でしょうか?その後調子が悪くなったりしていませんか?」

テラスティーネがイヴォンネに問いかける。イヴォンネは嬉しそうに微笑んで、全く問題ありません。と答えた。


夢から目覚めた2人から、詫びと経緯を受け取ったカミュスヤーナは、イヴォンネの傷ついた魔臓を、新しいものと交換する提案をした。

新しい魔臓は、自動人形作成の要領で、エンダーンが作成をし、傷ついた魔臓との交換は、魔法を用いて、カミュスヤーナとテラスティーネが行うことになった。


エンダーンは元々自動人形作成の第一人者であり、以前よりも腕が上がっていて、自動人形の作成だけでなく、臓器のみの作成も行えるようになっていた。

そして、人間の住む地では、人間の手に余る分野に関しては魔法士が行っており、臓器交換も、魔法を使って行われていた経緯があった。そのため、魔法士であるカミュスヤーナやテラスティーネは、その方法を学び舎である院で学んでいたのである。


どちらにしても、そのままでは早々に魔力が枯渇して死んでしまうことが分かっていたイヴォンネはその提案を受け入れた。

提案の見返りは、ユグレイティの地とハンニカイネンの地の友好関係を築くことと、ユグレイティにいささか有利な条件で交易を行うこととされた。


そして、ハンニカイネンの魔王は引き続き、ラーファエルが務めることとなった。その後ろ盾として元魔王の一人娘であり、魔力量が豊富であるイヴォンネが就くこととなった。

つまり、今までと変わらない体制のままということである。


既にある程度、ハンニカイネンの地の開墾は終わっており、大量の魔力を消費することがないこと、魔力量の乏しさ以外にラーファエルの治世は、ハンニカイネンの民に好意的に受け入れられていたことから、このような形に落ち着いたのだ。


「テラスティーネ。今日は長くハンニカイネンに滞在できるとお聞きしています。私、貴方とお話したいことがたくさんあるのです。」

「ええ、イヴォンネ。とても楽しみにしています。」

女性2人が楽しそうに会話するのを、男性2人は苦笑して見つめている。


テラスティーネとイヴォンネは、初回に会ってから意気投合し、まるで姉妹のように仲良くするようになっていた。2人の芯の通ったところが似通っているのだろうというのが、それぞれの伴侶の見解である。


「しかし、ユグレイティの地を長く空けておいて問題はないのか?」

「私の臣下は皆優秀ですから。」

カミュスヤーナはその赤い瞳を細めて笑んだ。

「ところで、ラーファエルとイヴォンネは結婚されないのですか?」

カミュスヤーナの問いに、当事者2人はその顔を赤くさせる。

「魔人で結婚しているものは少ない。私達は番であればそれでいいと思っている。」

「ですが、ラーファエルの魔力量ですと、討伐される可能性も高いですよ。早めに結婚し、お子を儲けて、魔王を継承することを考えられた方がよろしいのでは?」


「確かにラーファエルの魔力量は少ないですが、側に私がおりますから問題ありません。ラーファエルは私がお守りいたします。」

イヴォンネが宣言するのを見て、ラーファエルは頭を抱えた。

「まったくこの調子なのだ。大人しく守られてはくれない。」

「それは・・こちらも似たようなものですが。」

カミュスヤーナがポツリと漏らすと、テラスティーネが彼の腕により強く腕を絡めた。


「カミュスヤーナは、目を離すと、直ぐにいなくなってしまいますから、私が捕まえておかないとなりません。」

今度は、カミュスヤーナが頭に手を置いて、大きく息を吐く。

ラーファエルとイヴォンネが2人の仲睦まじい様子を見て、顔を見合わせた後、心からの笑みを浮かべた。


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幸せな夢を壊しましょう 説那 @kouumi

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