アイドルに恋した友人の話

アカバネ

アイドルに恋した友人の話

 AKB48が秋葉原のステージで、会いたかった会いたかったと歌っていた頃。

 友人に誘われてライブを見に行ったことがある。


 何も知らない僕は、友人に言われるままコールを送り、見よう見まねでサイリウムを振った。


 友人は推しの女の子に恋をしていた。


 知らない人からすれば、馬鹿な奴だと思うかもしれないが、本気で恋をしていた。


 アルバイトをいくつも掛け持ちして、同じCDを何枚も買って、推しの女の子を一生懸命応援していた。


 いつも金欠で、食事はいつもおでん缶で、時々、牛スジ入りのおでん缶食をべては「今日は贅沢しちゃったな〜」と笑っていた。


 それから数年が経ち、AKB48は売れに売れた。


 会いに行けていたアイドルは、もう手が届かないほど遠い存在になってしまった。


 そんなある日、突然友人が酒を持って遊びに来た。

 理由は聞かなかったが、一人でいたくなかったのだろう。


 僕達は昼間っから酒を飲み、馬鹿話に花を咲かせた。

 ふと気づけば辺りは暗くなっていた。


 馬鹿話しも一段落し、何かやってないかとテレビを付けると、ちょうどテレビでAKB48総選挙をやっていた。


 友人が突然遊びに来た理由は、これだったのだろうと思ったが、そこには触れなかった。


 友人はどこか遠い目をしながら、液晶画面の中に映る、推しの女の子を見つめていた。


 彼女は見事、総選挙で1位になった。


「アカバネとライブ見に行ったのっていつだったっけ?楽しかったなぁ」としみじみ友人が呟いた。


 ちょっと泣いているように見えたが、そこには触れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイドルに恋した友人の話 アカバネ @akabane2030

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ