第27話 ネコと少女

病にかかった。

「多水症」と言うらしい。


ユウカ「シオン…治るの…?」


シオン「療養さえすれば必ず…とにかく

先ずは宿まで運ぶわよ」


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二人に支えられ、宿のベットに腰を着く。


シオン「とりあえず…」


杖を取りだし、何やら魔法を掛けた様子。


拓海「止まった…」


シオン「魔術を使えなくする魔法よ」


拓海「何その魔法…」


シオン「想定外に備えて星を管理する

私達に許された権限、はい水…飲んで」


渡された容器に入った水を飲み干し、

シオンに質問する。


拓海「多水症?になると、どうなる?

原因は?」



シオン「原因は無意識下で魔術を

使い続ける事」


「多水症の場合、無意識に

水魔術が出て止まらなくなり…脳疲労と

脱水症状を頻繁に起こす様になる」


拓海「うわぁ…」


シオン「多炎症、常風症…無意識に起きる

魔術を「魔放病」って言ってね、

慣れ始めや…日常的に魔術を扱う魔術師に

多い症状なの」


拓海「療養って事は…」


シオン「使っちゃ駄目よ。今日明日は

最低でも休んでもらうわ」



拓海「この病…魔術師の人間が国に住めない

でしょ」


シオン「実際、決められた地区の在住か、

冒険者として国の外に駆り出されるかを

義務付けられているから…」



拓海「へぇーやっぱそうなんだ」



ユウカ「主ー、今日はもう…何もしない?」



拓海「そうだね…ごめんねユウカ。

それとシオン…、

直ぐにでもMono達を止めたいだろうに」



シオン「いいの、忙しないのは辞めに

したから…、それに全てのMonoの反応が

分からなくなっちゃった」


「きっとMono独自の共有方法があるのと…


拓海「思うんだけど…シオンって万能過ぎて

制限かけられてるよね」



シオン「運命ってそういうものだから」


、気味が悪い

くらい事が上手く運んだりするものよ」



拓海「貧乏くじしか引けない女…」


ユウカ「可哀想な女…」



シオン「誰が哀れな赤っ恥だって?」



拓海「そこまでは言ってない」



シオン「言ったも同然よ」



ユウカ「ねぇあ恥ー、遊ぼーよー」



シオン「ユウカぁ〜?」



拓海「遊んであげてよ」



シオン「子供のあやし方なんて知らない…」



拓海「子育ての記録とか…子供同士の遊び

とか知ってるでしょ?」



シオン「経験すると…違うものなのよ…」



拓海「まぁ…知るのと経験するのじゃ…ね…

経験した事あるの?」



シオン「……。さっき話した魔術師が

指定された地区に在住する話し…。」


拓海「うん、」



シオン「私が国王に協力して、

魔術を縛る魔法を掛けたからなんだけど…」



拓海「あ〜そういう繋がりが…」



シオン「街に結界を張って回ってた時に

子供に話しかけられて…」



拓海「思うようにいかなくて、悲しく

なっちゃった…?」



シオン「悲しくなっては無いわよ…ちょっと

悲しくなっただけ…」



ユウカ「シオン…?私は立派なレディー

だから大丈夫だよ?」



シオン「立派な女性は遊ぶのを懇願しないわ」



ユウカ「遊びじゃなくて良いから〜」



シオン「こ…困るのだけど…」


「君…保護者でしょ?何とかしてよ」



拓海「シオンもユウカの保護者でしょ」



シオン「そうだけど…向き不向きが

あるじゃない…私、こういう事は…」



拓海「子育ては向き不向きで

向き合うものじゃないよ?」



シオン「何で君は、私の味方をしないのよ!」



拓海「一緒に考えてって素直に

言わないから…」



「うーん、そうだな…居場所を特定して、

Monoを探し出すとか?

冒険みたいで楽しそう

じゃない?」



ユウカ「冒険!私、冒険者になりたい」



シオン「冒険者か…確かに得られる情報が

無いなら…情報収集は必要よね…」


「なんで私こんな簡単な事に…

やっぱり私…あ恥…なの?」


拓海「運が悪かった…そういう事にしとこう」



ユウカ「可哀想ちゃん…」



シオン「ユウカ?ユウカも私をいじるの?」



ユウカ「シオンは音のなる玩具…」



シオン「ユウカぁ…」



こうして真に冒険者となる

Mono探しの旅が

始まった。


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「子猫さん?」


「………」


「お家はどこ?お母さんは?」


「にゃーーっ」


女の子「にゃー…」


「にゃーーぁあ」


女の子「どうしたの?」


「にゃーーあーーぁあ…」


女の子「ごめんね、分からないや」



それはとある村外れにある海辺の近く…、

一人の少女が汚れた真っ黒の子猫を

見つけた。


子猫はを強請っているが、

何が欲しいのか少女には理解出来なかった。



「寂しいの?それともお腹が空いた?」


「にゃーーぁあ」



「うー〜ん……」



妖精「おや…これは可愛らしい…」



少女「あ、ウィズ…。ねぇねぇこの子…」



妖精のウィズ「随分とやせ細っているね」



少女「やっぱりお腹が空いてるのかしら」


「ウィズ?この子ずっと私に何かを

強請ってるの」


にゃー、


ウィズ「本当だね…」


少女「ねぇウィズ…いつもの魔法の

やつやって?」


ウィズ「いいよ〜?何にするかい?」



少女「猫さんは何を食べるの?」



ウィズ「うーん、虫や鳥…鼠なんかを

食べるんじゃないかな」


少女「えー虫…ネズミさん…」



ウィズ「虫や鼠は嫌いかい?」



少女「お母さんが、勝手にご飯を駄目にする

からイヤって…私も家に入られるのは

ちょっと…」



ウィズ「そうかそうか…確かに

それは正当な反応だ」


「ならそうだね…果実でも与えてあげようか」


少女「リンゴは!?リンゴはどう?」


ウィズ「林檎か…なら細かく切った物を

あげるとしよう」



少女「出してだして!!リンゴ!だして!」



ウィズ「はい、林檎。」


少女の要望に間も置かずにウィズは

何も持っていなかった手から林檎を

取り出してみせた。


続けてナイフを取り出し、器用に林檎を

切り細かくするとそれを子猫に与える。


少女「食べたー!」


ウィズ「よかった、食欲はあるみたいだね」


少女「……ねぇウィズ…余ってるそれ…」


ウィズ「うん、一緒に食べようか」


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にゃーーぁあ、


少女「この子また鳴きだした…」


ウィズ「ふぅん…まだ何か欲してるねぇ…」



少女「やっぱり寂しいんだよ」


ウィズ「そうかもしれないね」


少女「ねぇウィズ、この子の家族を

ここに呼べたりしない?」


ウィズ「ん〜…原型オリジナルの私なら…

ううん…無理だね、ゴメンよ」


少女「そっか…ならどうしよう…」



ウィズ「家族になればいいんゃないかな?」



少女「私が?でもお母さんが、

なんて言うか…」



ウィズ「お母さんはきっと許してくれるさ」


少女「本当に?」


ウィズ「もし心配なら、私からも話を

つけよう」


少女「うん、お願い。ウィズがいるなら

きっと大丈夫だわ」


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少女「お母さん!」


母親「どうしたの?あら…ウィズ…

もしかして、この子の面倒を?」


ウィズ「えぇそうですね、一人浜辺に

居たもので…、たまたま居合わせた私が」



母親「あらそう…、それで…その手に

抱えた子猫はどうしたの?」



少女「聞いてお母さん!」


「この子ね、お腹が空いてて…独りぼっちで、

とても可哀想なの」


母親「あら〜…なら何か食べる物を

出しましょうか?」



少女「うんうん…お腹はもういいの、でもね

この子…帰る場所が無くて…それでね…」



ウィズ「……ほら、お母さんに伝えなきゃ」



少女「…私ね?この子と家族になりたいの!」



母親「この子を家に?」



少女「うん、」


母親「……。」


少女「お母さん…」


母親「ダメよ。」


少女「どうして?」



母親「お家は家族が住むもの、その子の

居場所はここじゃないわ」



少女「だから家族になって…」



母親「家族になったら、お母さんは

貴女とその子に不自由ない暮らしをさせなきゃ

いけない…簡単な事じゃないのよ」



少女「でも…そしたらこの子が…」



母親「その子にはその子の生き方がある…

自然界では、孤独に生きる事も常でしょう?」


少女「私達と暮らすのも、この子の生き方…

じゃない?」



母親「それは…そうだけど…」


ウィズ「…お母さん、いいじゃないですか」


母親「なぁにウィズ。また妖精お得意の

思いつきじゃないでしょうね?」



ウィズ「違いますよ。娘ちゃんの優しい思いを尊重してあげたいだけですよ」



母親「そう?でも飼えないわよ」



ウィズ「生活には困ってないのでは?」



母親「そういう問題じゃないのよ…その子が

病原を持ってるとも限らないでしょ?」


「私は猫よりも我が子が大事なの」



ウィズ「なるほど…ですがその猫は私が見るに健全で異常ありません」


「娘さんを大事に思うお気持ち立派ですが、

娘さんの気持ちを大事にするのも また…

母として必要なのでは?」



母親「それは…そうでしょうけど…」



ウィズ「この子を通して、娘さんは

命の大切さを学べるでしょうし、猫は

虫や鼠を駆除してくれるので役立ちますから」



母親「そう…ねぇ…」



ウィズ「娘さんに、命を粗末にする子に

なって欲しくは無いでしょう?」


母親「ん〜はぁ…負けたわ、貴女の口車に

乗るわ」


少女「それじゃあ!」


母親「今日からその子は家の子よ」



少女「やった!ありがと、お母さん!」



母親「どういたしまして」



少女「ウィズもありがとう」



ウィズ「良かったね、ソニア。」



ソニア「うん!」



その一部始終を、黒い子猫は静かに

見守っていた。

じっと、少女の胸の中で微動だにせず、

観察し…まるで学習して貯えるように…。



それから、ソニアと母親は二人で

子猫を育て…


一月も経たない内に、子猫を手放した。



ソニア「ゴメンね…うぅぅ…ごめんなさい」



夜の浜辺に、すすり泣く少女の声と、

それを微笑む妖精の姿があった。

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星ノ木 花水スミレ @sumire34si101096

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