第26話 多水症

拓海「早かったね、二人共…」


ユウカ「すぐ終わったー」


拓海「怪我は…してないね…死んだり

してない?」


シオン「お相手さんの危機管理が

しっかりしてたお陰でね…って君…眼鏡は?」


拓海「ん?さっき水の魔弾を出したら

顔に当たって…」


シオン「怪我は…してない…自分で

治したの?」



拓海「うん…まぁ…そぅ、」



シオン「それ…見えて…」


拓海「分かる?裸眼でもハッキリと」



シオン「何で…?」



拓海「俺の中身がスカスカだから」


シオン「はい?」



拓海「シオン…俺に目玉は付いてる?」



シオン「付いてるけど…何…失明でもした?」



拓海「いや、そうじゃなくて…、」


「視力が無かったんだよ俺…。」



シオン「言いたい事が分からないんだけど…」



拓海「見た目だけなんだよ…この身体、

認識されてるか、されてないかで虚像か

有る物か変わる。」


「世界を観測するための行為として、

‪”‬目で視る‪”‬︎︎ ︎︎事を意識的にしてるけど…」



シオン「そういう事…?どれだけ認知する

力があるかどうかは…君も私達も

認識する事ができない…。」


「けれど、君には過去という名の

記録があるじゃない?」



拓海「それは存在しない記録でしょ?」


「記憶として詳しく知るクロネが、

良くなったって認識してくれないと

また眼鏡がいるんだけどさ…」



シオン「……君…今後、私達から離れないで」



拓海「認識してれば良いんだから、

別に離れても…」


シオン「わかった!?」


拓海「はい…」



ユウカ「主は、中身のない人間…」



拓海「…言い方…中身は無いけど

中身はあるの!」


ユウカ「主はややこしい…」



拓海「うん…そうなんだけど…ユウカもね?」



ユウカ「ユウカは中身が無いから

意味があるんだよ」



拓海「俺だって何も無いから意味がある

んですけど?」



シオン「そんな事より!」


「まだ使いこなせてないでしょ?

続けなさいよ修練」



拓海「あー…うん」


ユウカ「ねぇ主、みせて見せて、水のヤツ」


拓海「いいよぉー」


両手を胸の前にやり、手の平から水を出す…


「あれ…?」


ユウカ「主…?」


拓海「何か…上手く出せない…」


シオン「修練が足りないみたいね

ものの数分で出来るほど甘くないわよ」



拓海「いや…なんて言うか…」


水自体を出すことは可能だけど…

中心に上手く集められない。



「二人とも…特にシオンは、まじまじと

見ないで欲しいんだけど…」


シオン「ひ、人のせいにするの!?」


拓海「いやー…認識されると…

再現できないから…」


シオン「それを何とか出来るように

するんでしょ?!君の技量不足じゃない!?」


拓海「そ…そうね…、でもシオンと俺の

在り方って相性悪いよね…」



シオン「相性悪い…、相性…悪い…」



拓海「シオン…?」



シオン「そ…そこまで言わなくたって…」



拓海「え…、あっ…あー…あの〜

相性が悪いだけー…であって…」


ユウカ「主…ごめんなさいは?」



拓海「ごめんなさい…」

(そんなに言っちゃいけない事だったのかな)



シオン「必要が無い事と…相性が悪い事

以上に悲しい事は無いわ…。」



拓海「そうなんだ…そうだよね…、

確かに悲しい…、ごめん」


シオン「…でもそうね、一緒に居ない方が

捗るでしょうし、私…宿に戻るわ」




拓海(行ってしまった)

「あー…どうやって機嫌直して貰おう」



ユウカ「主…シオンは頼られるのが

一番、嬉しい」



拓海「頼られる…頼ることねー…何だろ。」


ユウカ「他の魔術のコツとか…

教えて貰ったら?」



拓海「そうしようかな…あっ、」


あるな…シオンにして貰いたい事。


-----------------------------


拓海「シオン!」



シオン「魔術の修練…するんじゃないの?」


拓海「シオンにして欲しい事があって…」


シオン「私…居ない方が良いはずでしょ?」


拓海「うん…相性は悪いけど、一緒に居たく

ない訳じゃないから、ね?」


シオン「知ってる…ハッキリ言うから

ちょっと悲しくなっただけ」



拓海「ごめん、シオンがいないと困るから…

機嫌直して下さい。」


シオン「そうよね、困るものね…」


「大丈夫よ、貴方もユウカも一人じゃ

この世界でやっていけないもの…」


「頼られたら助けるわ」



拓海「ありがとう…シオンさん」



シオン「それで?して欲しい事って?」


拓海「思ったんだけど…修練なんか

しなくてもさ」


「ユウカがシオンの記録を回収して

「新生」の力で俺に渡せば全魔術使える

かもって…」


シオン「謝った後に都合の良い女に

なれって…正気?」



拓海「ユウカが喜ぶって…、

都合が良いのはお互い様だし…」



シオン「どっちも…間違って無いけど、

君…忘れてない?私が堅物だって…」



拓海「と言うことは…」



シオン「自力で頑張りなさい?

自分で身につける事に意味があるんでしょ、

こう言うのは」


拓海「ごもっともです…」



シオン「頑張って」



拓海「頑張ります…」



-----------------------------


ユウカ「どうだった?」


拓海「許してくれたけど…お願いは

聞いてくれなかった」



ユウカ「あらぁ…」


拓海「仕方ない、認識されても出せる

魔弾を編み出すしかないな」



ユウカ「どうやって?」


拓海「こうやって手の形を変える…とか」


凪星は右手を筒状の形にして、

それを左の手の平に合わせる。


拓海「子供が遊ぶ水鉄砲くらいには

なるだろうけど…」


ユウカ「主…撃ってみてー」


拓海「おっけー、くらえ〜」



ユウカ「冷た〜い」



射程と威力を伸ばしたいなら

もっと水の勢いを増さないといけないが…


拓海「風邪ひくから乾かしてきな?」


ユウカ「もう乾いたよー」


「ねぇ主、水遊び…しよ?」



拓海「ユウカは水…どうするの?」



ユウカ「私も出せるよーくらえ〜」



拓海「あー…(俺より精度良い〜)」


「凄いなー…ユウカー?もっと威力出せる?」



ユウカ「出せるよーほらー」



拓海「おぼぼぼぼぉ…」


「ユウカー、どうやったらそんなに出せる?」



ユウカ「うーん?ドバッーて力を出す感じ?」



ドバー…っとねー…、やっぱり

汗をかくイメージは駄目かな…。


自分の物なのに脳はコントロール出来ないから

なぁ…、汗の量も調節できないのに

同じ要領でやっても

威力を上げるのは難しいか…。


いや…空っぽの自分に脳なんて入って無い

んだけど…。


ただ、想像する以上…元となる物が無ければ

不自然で…そうなるとこの眼も

何処へ情報を伝えてるんだと意識してしまう。


(視界がぼやける…)


こうなると感覚を戻すのに、もう一度

死ななければならない。


(身体も重い…)


空っぽの箱に中身を詰められてるようだ…、

自分の身体なのに、

まるで霊が憑依をして受肉するかのよう。



ユウカ「主?遊ぼ?」



拓海「三回当たったら負けにしよう…」


ユウカ「うん!」


二人は互いに臨戦態勢を取り、

ユウカが先手を打つ形で水鉄砲の撃ち合い

と言う名の決闘が始まった。


遊び…且つ本気、

始めはユウカが水を乱射し、

それを凪星が水進で高速移動しながら

的にならず、

適切なタイミングで間合いを詰め

一本取ると…


同じくユウカも水進で

距離を詰めながら水を乱射し、

輪廻界変でゼロ距離の不意打ちを取り

一本を取る。


そのまま魔術で盛り上がった

土で凪星の進路を次々に断ち、

それを踏み切り台にして

ユウカは頭上で狙い撃つが、凪星も空中に

いる瞬間をすかさず狙い撃ち

両者共に二本目を取るが…


着地のタイミングで流れるように

風の魔術で凪星の身体は軽く飛ばされ、

最後の一撃をくらいユウカが勝利した。


そして、その後も二人の遊びは続き、

実践により意識的に行っていた物が

無意識下に置かれた事で…凪星 拓海の身体に

異変が起きていた。


拓海「つ疲れた…(頭が回らない…)」



ユウカ「主ー、もう遊ばないのー?」



拓海「ユウカは良く動けるね…」



ユウカ「皆んながいっぱいくれるんだー」


拓海「何を?」


ユウカ「元気!」


拓海「そっか…だからユウカは強いんだね」


ユウカ「うん」


魔術を使用するとエネルギーを消費して、

脳の疲労による空腹や眠気がやってくる。


俺が疲れているのは正しくそれが理由だろう、

けれどユウカは星に在る、全ての物から

有るものを回収できるため、力不足や

エネルギー切れを起こさない。


(身体が…怠い…熱い…)


ユウカ「主…?」


拓海(水が…止まらない…)


視界が暗い…今…どうなって…


ユウカ「主…!!」


シオン「ユウカ、どうしたの?!」


ユウカ「シオン!主が…」


シオン「君…ねぇキミ」


拓海「シオン…何か水が止まらなくて…

身体も…怠い…」


シオン「君…それだよ」


拓海「多水症…」


シオン「魔術師がなる病気よ」


どうやらかみを倒す前に自分が

病にかかってしまったらしい。

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