美しく獰猛で狡猾な人魚と、その人魚を釣る人魚釣りの物語

この物語に登場する人魚は美しい。魚だけではなく、植物や鉱物で作られた身体を持つ。それでいて、獰猛で狡猾で人を惑わし肉を喰らう。そんな人魚を釣りあげ時には解体するのが、人魚釣りの仕事である。

主人公である人魚釣りは、人魚釣り業を辞めた父親の代わりに海に留まり、普段は魚を釣って売りに行き、頼まれれば人魚を釣りに行く日々を送る。
ある時、魚釣りの最中に偶然にもキョウチクトウの人魚を釣り上げてしまう。
魚釣りの邪魔をした詫びを求めると、彼女は自らの身体に咲く毒を持つ赤い花をよこし、ふっと笑い海に消えた。
その日以来、人魚釣りの頭からキョウチクトウの人魚の姿が、赤い毒の花が離れないようになる。

「人魚釣りのはなし」は、人魚という人間に似ているが、美しく獰猛な生き物の息づく物語である。
この世界でも時代の流れによって、人に似た姿の人魚を釣る行為は大罪と見做されている。町に出れば『異形食らい』の赤く染まる瞳を見咎められ、内陸住まいの学者に因縁を付けられさえする。
しかし、海辺に住む者にとっては人魚釣りは欠かせない存在である。漁を邪魔したり、人を惑わし食らう相手に対抗するのは人魚釣りしかいないのだ。
請われて海に留まる人魚釣りと、人魚たちとの命を賭けたやりとりは手に汗を握る。死と隣り合わせの釣りに、生き物の在り方を垣間見る。
多くを語らぬ人魚釣りと、その周囲の人間や人魚たちとのやりとりも心地良い。
この世界に根付く人魚の文化や歴史も非常に興味深く、人魚釣りとキョウチクトウの人魚の関係の変化と共に楽しんで頂きたい。