03.受容

03.受容

「はい、検査での異常は何もありませんね。これで退院できます。退院おめでとう、黒斗くん。柊さん、一応家でも安静にしておくよう宜しくお願いします」

「先生、ありがとう!ぼく、これからも元気に頑張るね!」

「先生、長い間お世話になりました。それでは失礼いたします」

 目を覚ましてから二週間程経って退院した後、家がガス爆発で吹き飛んでしまった俺は神社の住職をやってるじいちゃんの家で暮らすことになった。

「なぁ黒斗、一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「いいよ」

「あのがあった日、現場には父さんと母さんの他に誰かいたか?」

「ううん、父さんと母さんだけだったよ」

「…………そうか。ありがとな」

「(………なんでじいちゃんはそんなこと聞いたんだろ?まぁ、いっか!)ねぇ、じいちゃん、父さんと母さんにいつ会えるかな?」

「も、もうすぐだ!きっと会えるぞ!」

「ほんとだね?ぼく信じるよ?」

「あ、あぁ!もちろんだとも!」


 だが、そんな日はいつまでも続かなかった。


―――ダァァンッ!!


 あのから一年が経ち、小学校4年生になった俺はある日、学校から帰ってくるなりじいちゃんの家の玄関の扉を勢いよく開けた。

「じいちゃん!どういうことだよっ!父さんと母さんがもう死んでるって!」

「なっ、いきなり何を言ってるんだ」

「今日学校で友達に言われたんだ、お前の父ちゃんと母ちゃんはもう死んじまっていねぇーんだよ!って」

「学校で一体何があったんだ ⁉ 話してみなさい」

「この手紙を今日学校でもらったんだ」

「ん?どれどれ………授業参観の手紙じゃないか」

「うん、それで先生がこの手紙を必ずお父さんとお母さんに見せること!って言ってたから、僕、先生に父さんと母さんは今事故で怪我けがを治してるから見せられません、って言ったんだ。そしたら近くにいた友達が、お前の父ちゃんと母ちゃんはもういねぇーんだよ!って」

「そ、そうなのか。これはわしがしっかり行ってやるから心配するな、な?」

「じーちゃん、本当のこと言ってよ。もう本当に父さんと母さんは死んじゃったの?」

「あの……その……まぁ、なんだ、怪我が思ったより酷くてまだ退院できないそうだ」

「本当?もし本当なら病院に行って父ちゃんと母ちゃんに会ってくる」

「あっ、それはだめだ!今は面会謝絶って言ってな、誰も入っちゃいけないんだ」

「前もそう言ってたじゃん!でもお医者さんに聞けば父ちゃんと母ちゃんがまだ元気かどうかは分かるよね?」

「そ、そうだな………でも……」

「でも何?何かあるなら早く言ってよ。早く病院に行って確かめたいんだ」

「非常に言いにくいんだが………」

「いいから早く!」

「じ、実はだな………黒斗の父さんと母さんは、もうあので亡くなってしまったんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、全身の血が体から消えた気がした。

「なっ………、なんで、なんで、なんで今まで本当のことを話してくれなかったんだよ!」

「そ、それは黒斗が悲しむと思ったからで………」

「今の方がもっと悲しいよ!今までずっとじいちゃんのこと信じて、いつかきっと父さんと母さんは帰ってくるって待ってたのに、もうとっくに死んじゃってて会えないって酷すぎるよ!もうじいちゃんなんて嫌いだ!」

 そう叫ぶと俺はじいちゃんの家を駆け出していってしまった。

「黒斗!待てっ!………………伝えるにはまだ早かったか。だがあの時はショックで禍者まがものの襲撃すら覚えてないようだったからな………あそこで無理に伝えようとしてもパニックになるだけだっただろうな。さっさと追いかけるか。黒斗が行くとしたら、おそらくあの場所だな」


「ここにいたのか」

「何しに来たんだよ、じいちゃん。ずっと嘘ついて僕のことだましてたくせに」

「それについてはすまなかった。それにしてもこの河原、いつ来ても穏やかな気持になれるよなぁ。黒斗も父さんと母さんとよくこの河原に来てたもんなぁ………」

「でもこれからはずっと一人ぼっちだもん」

「儂が隣にいてやるよ」

「そう言ってじいちゃんはすぐ嘘つくから嫌いだ!父さんと母さんのことずっと嘘つき続けてきたくせに………」

「本当に悪いことをしたと思っている。だが、もしあのときすぐに伝えてしまったら黒斗は絶望して立ち直れないと思ったからなんだよ」

「でも後から知ったほうが絶対悲しいに決まってるさ!」

「そうだったか、ごめんな………」

「もう父さんも母さんもいないなら、僕のことは誰がめてくれるの?僕と一緒に誰が笑ってくれるの?こんな思いするなら、僕もあの時父さんと母さんと一緒に―――」


 ―――パシィンッ!


 乾いた音が河原に響いた。

「そんなことを言うんじゃないっ!先に死んでしまった黒斗の父さんも母さんも、黒斗までもが一緒に死んでしまったりなんかしたらもっと悲しむんだぞ ⁉ たとえ今、どんなに悲しくても、どんなに苦しくても、どんなに辛くても、いつかはそれを全部受け入れて前に進んでいかなければいけないんだ!これからもきっと悲しいことや苦しいこと、辛いことはたくさんある。その度にいつまでも立ち止まって泣いてたんじゃ、ずっと前には進めん。今は泣いたっていい、その苦しい思いを全部吐き出せ。その悲しみも、苦しみも、辛さも、全部じいちゃんだって感じているんだ!少しづつでいい!じいちゃんと一緒に進んでいこう、前に、前に!」

 俺は目が涙でいっぱいのじいちゃんに抱きしめられた。

「う、う"わ"ぁぁぁぁぁぁぁぁん!!父さぁぁぁんっ!母さぁぁぁんっ!!」

「今は泣け、目一杯泣け!」

「うわぁぁぁぁぁん!!!あ"い"だい"よ"お"ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「そうだよな、会いたいよなぁっ………」

「どう"ざぁぁぁんっ!があ"ざぁぁぁんっ!」

 この日、俺は日が暮れて涙がれるまでじいちゃんに抱きしめられながら泣き続けた。

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黒鉄の浄禍師 鷹藤ナス @ryoutaisyou3110

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