第15話 声なき声に助けは来ない

~妄想~


 中学校の新学期。


 新しく隣の席の女の子が話しかけてきたのです。


「わたしはミサキっていうの。よろしくね」


「……」


 わたしはすこしも目を合わせません。


 なんだかムカつくので無視しましょう。


 そう思ったのです。


「……あの……」


「……」


「……ごめん」


 これでその女の子と友達にならずに済みました。


 めでたしめでたし。


***


~妄想~


 隣の席になった女の子。


 その子には友達が居ません。


 前から同じクラスだった子が言うには、誰とも話す気がないらしいのです。


 その話を聞いてわたしは思いました。


「きっとその子はね、変なんだよ。

 近づかない方がいいんじゃないかな」


 そしたら友達みんなが、「そーだね」「わかる」と同じ意見でした。


 なので、もう二度と話しかけたり関わったりするのはやらないって決めました。


***


~妄想~


 ある日、その子のリュックについていたキーホルダーに気が付きました。


 そのキーホルダーはわたしが好きなアニメのキャラクターだったのです。


「それ、なにかな?」


「へ——?」


 ついうっかり、絶対に話さないと決めた女の子に質問しました。


「その……これは、お兄ちゃんからもらったもので——」


「気持ち悪い。もう二度とそのアニメ見ない」


 わたしは自分の持ち物から、そのアニメのグッズを一つ残らず捨てました。


 こうなったのは全部、あの子のせいです。


***


~妄想~


 あの子が居ないところで、女子達みんな言いました。


「あのミサキってやつさ、マジで邪魔じゃない?」


「全然しゃべらないし、薄気味悪いよ」


 わたしは言いました。


「だれか席変わってよ。

 わたしね、あの子の隣はもういやだよ」


「私だってやだし」


「ぎゃはは、無理!」


「「「あはははは!」」」


 あの子はおかしい。


 それは事実なので、これは陰口じゃないのです。


***


〜妄想〜


 わたしたちは、中学校の最後まで楽しい思い出を作りました。


 あの子は中学校卒業まで、何も変わりませんでした。


 わたしは、ダメな子の人生は最後までダメなんだって思いました。


 あーあ、またあの子と同じ学校になったら嫌だなぁ。


 鬱になっちゃうなぁ。


***


〜妄想〜


 高校に入ると、あの子はいませんでした。


 とってもラッキーだって思いました。


 あの子の居ない高校生活を送ることができて大満足です。


 だってあの子は――


 お兄様の敵なのですから


***


〜現実〜


「サチ!」


 突然の言葉にびっくりしました。


 わたしは突然現実に引き戻され、気分が悪くなりました。


「あ……悪い。急に起こして」


――いいえ、大好きなお兄様。わたしは大丈夫だから!


 相手がお兄様だと分かると、不機嫌が吹き飛びました。


 そしてウキウキな感じです。


「俺な……どうしてもサチに言わなきゃいけないことがある」


 その言葉を聞いて、身構えました。


 またわたしが思わぬところで、悪いことしたのでしょうか?


「本当にごめん! 俺の勘違いで、サチに酷い仕打ちをしたこと――全部、謝りたい!

 俺が馬鹿だった!」


――え?


 わたしは思わぬ言葉に呆然としました。


 謝るだなんて……お兄様は何も悪くないのに


 悪いのはわたしと……


 それに、勘違いだということを誰から聞いたのでしょうか?


 もしかして――


「全部、ミサキちゃんから聞いた。

 ……俺が勝手に勘違いしただけだってこと、ようやく理解した。

 最初から、サチは裏切っていなかった。でも、俺が逆恨みして……お前を拒絶して……!」


――お兄様は悪くないよ! いじめられて、傷つけられて、苦しんでたのはお兄様!


――悪いのは、それに気づくことが出来なかったわたしだよ! そして……


 頭の中には、『ミサキちゃん』の言葉が浮かぶ。


「償いたい! もう何もかも遅いかもしれないけど、俺は何でもする!

 サチを大切な妹として、ずっと守る! 何でも叶えてやる! サチに死ねと言われたらこの場で死んでもいい!!」


――やめてよお兄様! 死ぬとかそんなこと望んでない!


「ひっく、ひっ、俺……生まれ変わるよ……サチの兄として、誇れる男に……!

 頑張るから……頑張るからな……本当にごめん……ごめんな……」


 お兄様は泣いていました。


 わたしの動かなくなった手を握りしめて。


 お兄様の温もりは脳には伝わらないけど、心に伝わりました。


 しばらくすると、お兄様は泣き止んでいました。


「……そういえば、ミサキちゃん」


――ミサキちゃんですか?


「あの子、とってもいい子だよな」


――そうですよ! ミサキちゃんはとってもいい子ですよ!


――だって、とっても可愛くて、陽気で、暗い気持ちの時は明るく盛り上げてくれて……


 ミサキちゃんは、本当にいい子。


 最初に会った時から仲良くなりたいなぁ、って思ったの。


 ミサキちゃんと友達になったきっかけは、好きなアニメキャラクターのキーホルダーの話題になった時です。


 『お兄ちゃんに貰っただけで、そのアニメ見てない』と言ってたので、『一緒に観ようよ!』と誘ったのです。


 仲良くなれてとっても嬉しかったなぁ。


 わたしがミサキちゃんを誘って、他の友達と一緒に遊んだこともあった。


 そしたら皆もミサキちゃんのことが好きになって、仲良しになったの。


 中学3年生の思い出の中には、かならずミサキちゃんがいました。


 高校生になって、一緒の学校に行って、とっても嬉しかったの。


 その理由はとっても単純。


 ミサキちゃんが、いい子だったからです。


 大切な友達だったからです。


 なのに……わたしは……!


「……もっと早く、話せばよかった」


 悲しそうな声でお兄様は言いました。


 そしてお兄様は、「シャワーしてくる」と言って、部屋から出ていきました。


「…………」


 わたしは自分の愚かさに呆然としました。


 なんでわたしは、ミサキちゃんを悪者にしたのでしょうか?


 あんな醜悪な妄想をするだなんて……


 わたしはそんなこと、これっぽっちも望んでないのに!


——でも慰めにはなったでしょ?


 違う! そんなの慰めじゃない!


 ミサキちゃんは大切な友達——絶対に悪いことをするような子じゃないのに!


——でもあの子がいたから、お兄様を傷つけ、兄妹の仲を引き裂いた!


 それは運命のいたずらでしょ……ミサキちゃんのせいじゃない……


 せいじゃないのに……!


——でも誰かを悪者にした方がスッキリするよ? 悪いのは全部ミサキちゃんでいいじゃん!


 そんなことない! 誰か助けて! わたしがおかしくなっちゃうの!


 頭の中の、もう一人のわたしの声が、誰かを恨みたがってる!


 嫌だよ……誰も恨みたくないの……!


 みんなわたしの大切な人たちなのに……!


 助けて!


 助けて!


 お兄様ぁ! エミーちゃん! お父さんお母さん! ミサキちゃん!


 誰か助けてよぉ!!


 ……


 …………


 ……………………


 なんでお兄様は、ミサキちゃんのこと、許しちゃったの……?


 お兄様がミサキちゃんを恨んだままなら、わたしもミサキちゃんを悪者に出来たのに……。


 これからわたしは、誰を、何を、憎めばいいの……?


 助けて……お兄様……助けて……





ーーーーー

絶望編 終

続きはまた、ひと月後を目安に掲載する予定です!

続きが気になる方や楽しんでくれた方は、ぜひとも、星評価・感想・フォロー・宣伝してくださると喜びます!

今後とも本作をよろしくお願いします!



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兄と妹たちの大三角関係〜下の妹を選ぶのですか!? お兄様!〜 シャナルア @syanarua

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