第2話

しかし、帝国のダガー型の兵器”ヴィクター級ギャラクシーディサスター”はもう目と鼻の先に迫ってきている。


石原は「このままだったら俺もあんたらも死ぬけど?どうする?俺の言う通りにして、金を払って助けてもらうか、このまま無重力空間に放り出されて苦しみながら死ぬか、それともこの中の誰かが発狂して発砲しまくって全員苦しまずに死ぬか、三つに一つだな。早く選んだ方が良いぞ。お前らはまだ若そうだ。俺の方が若いけどな。」


この嫌味な発言にその場にいた全員が気にするな気にするなと自分に言い聞かせていた。だがそんなことは叶わなかった。


石原の巧みな話術に何であれ言葉を発せずにはいられなかった。


総裁はプライドを捨て「払います。だから助けてください。」と言った。


無理もない直径800kmの惑星二つ覆い隠すほどの大きさの船が迫ってきているのだから。


石原は少し黙ってから「船は放棄してもらう。」と言って懐から一つの銃のようなものを取り出した。それは銀のトリガーとバレルが一体になっている非常に変わった形の銃だが、何やら先端部分に小さめのカプセルがついている。


石原はその銃のトリガーに手をかけて撃った。


バレルから出てきたのは弾丸ではなく、赤と緑の混ざった光線だった。その光線は壁にあたるや否やポータルのようなものを生成した。


男はポータルを指差して、全員この中に入れ。決して逃げようなんて考えるなよ。」と念を押して案内した。


レオリコは「この先には何があるの?」と聞いた。


石原は「お前らの基地のはずだ。早く入れ。」


レオリコは「はずだ!?それにこれはなんなの?」と船のレッドアラートに負けないぐらいの金切り声で叫んだ。


その刹那、船体が大きく揺れてポータルが閉じかけた。


石原は怒鳴った「良いか?これはディポーターと言ってマルチバースを移動できる銃なんだ。そんなことより、今度は二つに一つだ。実にシンプル。死ぬか!生きるかだ!」


一同は気圧されてポータルの中に入っていった。


 石原はポータルを閉じると捕獲空間へ移動しシャトルを出した。


慣れたようにシャトルを方向転換させて”ヴィクター級”の後ろに回ると、先端がコクリコ号を潰すのがよく見えたが、そんなことはどうでも良くて男はシャトルの右翼からマシンガンを覗かせた。


そしてエンジンの中に何発も何発も打ち込んだ。ハッチからレッドアラートが聞こえたと思ったら機関損傷を起こし、停止した。


内部では”サザンクロス中隊”が石原を撃沈しようと兵器の格納庫へ走っていた。


管制室では操縦員五十二名が総動員で船の損傷を補完しようとした。


この船の提督であるジストン・クリス二トルドンはお世辞にも有能とは言えない軍人だった。


運とコネクションだけで宇宙軍提督の地位に上り詰めた無能である。


だからこのような緊急事態にも対応することが出来ない為ミスがミスを生む混沌の状況を生み出していた。


 石原は次にコックピットの上部にあるレバーを全て下げて、シャトルのエンジンから細いチューブのようなものを何本も出した。


そして操縦桿を引くと、そのチューブから青い線香が幾つも飛び出て中央で一つになり、ヴィクター級の腹に突進した。


帝国連邦政府の精鋭”サザンクロス中隊”が格納庫から飛び出したタイミングで青い光線がヴィクター級に直撃し、白い蝶のような形の爆発を起こし大破した。


石原は「天才に歯向かうからこうなるんだよ。」と吐き捨てるように言ってコックピットのアダプターにディポーターを差し込み、シャトルをテレポートさせた。


ヴィクター級の残骸は今でもクリストン星系の”輪の中央”に無惨に散らばっている。船の部品や、死体や、”サザンクロス中隊”のパイロット達の頭が・・・・・・



 銀河帝国連邦政府の基地である”ジフィター級スーパーギャラクシーディサスター”は今反乱軍の基地の捜索に全力をあげている。


何故なら三ヶ月前から開始している”反乱軍基地壊滅作戦”が全く進展を見せておらず、これまで作戦の指揮をしてきた優秀な将軍達が皇帝からの制裁を受け体を鉄に変えられてしまい命を落としてきた。


そして一週間前新たに指揮官に任命された”マクスウェル=ロンジバーディング・ドゥルクエスター”も周囲のプレッシャーを感じながら作戦を遂行していた。


ドゥルクエスターは二十五年前、帝国連邦政府が樹立した三年後に帝国銀河のストングシーナ星系の惑星シールカミナで生まれた。かつてのシールカミナは辺境の地の代名詞で銀河のスラム街といえばシールカミナと言うほど腐りきった治安だった。


ドゥルクエスターの父と母は共に環境改善に取り組んでおり、帝国とも接点があった。


父の”マートニウェル=ロンジバーディング・ドゥルクエスター3世”は世渡り上手で自身の目的を達成するためには敵味方関係なく行動を共にするようなカリスマ性も持ち合わせている人物だった。


その気性故か帝国が樹立してから環境改善庁への援助金を提供してもらうために皇帝に直々に交渉し、言葉匠に皇帝を納得させ、何と八千七百九十万円を援助させた。


その甲斐あってか、シールカミナの治安と環境は徐々に良くなりつつあった。


父の背中を見て育ったドゥルクエスターは父を尊敬していたが、同時にしっかりと交渉して利害が一致すれば友とみなし協力する帝国のスタイルにも尊敬の念を抱いていた。


そしていつしか帝国軍人となって皇帝に忠誠を誓い、このシールカミナを銀河一綺麗な惑星にしてみせると自分と約束した。


幼き頃から優秀だったドゥルクエスターは数学と公民の分野において頭角を表し、若干十二歳にして銀河帝国連邦政府士官アカデミーへ入学。


知識と帝国軍人としての信条を学び十九歳の誕生日を迎えた翌日に飛び級でアカデミーを卒業し、故郷シールカミナの海賊の取り締まりの業務を与えられると同時にストングシーナ星系のヴェラニー級ギャラクシーディサスターの副総督にも任命された。


夢の帝国軍人となったドゥルクエスターは周りの将校達が海賊からみかじめ料を巻き上げ海賊行為を黙認するような汚職行為に手を染める一方自分は絶対にそんなことはしないと誓っていた。


そして地道に与えられた仕事とシールカミナの自然を守る政策を立案したりとシールカミナの環境保護に貢献したことでシールカミナ自身の目標であった銀河一綺麗な惑星となった。


その功績が認められ今は宇宙軍元帥の地位を得てドリトルネ星系の”ヴィクター級”の提督となった。


 彼が反乱軍を撲滅するために考えた作戦は殲滅したエール小隊の戦闘機のコンピューターチップを解析し、信号を発生させそれを反乱軍に受信させることで居場所を特定するというものだった。


この戦略を行なって三日で”第二トゥルー基地”の場所を特定に成功した。そして、あわよくばその信号を受信した一つのコクリコ号という船の追跡にも成功し、捕獲し情報を吐かせる三段だった。


しかし、コクリコ号の追跡に向かわせた”ヴィクター級”がどう言うわけか返り討ちにされてしまい、偶然任務から最寄りの帝国主力艦へ帰還した”サザンクロス中隊”も戦死したという知らせが入ったのだ。


しかも返り討ちにしたのは反乱軍でもない民間のシャトルのパイロットだった。


まともにこの報告をすれば首が飛ぶことは間違いない。


まずはスローター・アミネス大宰相に報告しなければいけない。彼は帝国有数のエリート軍人であり皇帝の右腕といっても過言ではない。


数々の戦果を上げ、帝国が国家として安定するまでも政治や経済に関わり情勢に貢献してきた御方である。


ということでドゥルクエターはアミネス大宰相と連絡をとり、自身が運用するヴィクター級をアミネスが艦長を努める移動型巨大基地ジフィター級ギャラクシーディサスターへ移動させた。


 石原は第二トゥルー基地のあるミランディスト星系の未知領域の惑星スボ二ーへテレポートし、基地へと向かった。


基地の入り口では当たり前のように警備隊が巡回している。


石原はいや荒瀬のつもりでシャトルを基地の入り口がある雑木林へ急停車した。


松の木四本程度踏み倒して警備員を一人か二人跳ね飛ばして着地した。


しばらくするとレッドアラートが鳴り響き、異常事態に気づいた反乱軍が銃火器を持って外に出てきた。


スピーダーに乗って身構える者もいた。


シャトルのハッチが開いて石原が出てきた。


反乱軍は皆引き金に指をかけて今にも撃たんとしていたが、中から総裁が出てきて「やめなさい」の一言で全員が銃を下ろした。


石原は「なんてひどい出迎えだ。」と嫌味を言った。


反乱軍は皆黙殺し、中へ通した。


一応コクリコ号の船員を救出してくれた男だから丁寧な対応をしなければならないのは分かっているが、わざわざこんなよう登場の仕方をしなくても良いのではないかと思う。


ついでに言えば何故我々の基地を知っているのだ。


レオリコ総裁は石原をペガサス副総裁のいる会議室へ通した。


ペガサス副総裁は石原が椅子に座るなり質問を連呼した。


「まず、レオリコ総裁とコクリコ号の船員を助けてくれたことは感謝する。」


石原は「感謝しきれないんじゃないか。」と言った。


ペガサス副総裁は少しレオリコ総裁の方見て「君はどこ出身だ。正式な職業は?年齢は?これくらい我々にも知る権利があるだろう?」


石原は「・・・確かに」と言って続け様に「俺は、ここの次元の人間ではないんだよ。」と意味不明なことを述べた。


ペガサスは案の定顔を顰めて「どう言うことだ。」と言った。


石原は座り直して「・・・理解する頭があればの話なんだが・・・宇宙というのはここ一つだけではないんだ。無限の時間軸と共に様々なヴァージョンの生命体や銀河の微粒子構成に抱き抱えられて俺たちは生きているんだ。


多元宇宙に移動することは本来タイムトラベルと同じように不可能だったことだ。だが、俺はそれを可能にした。


元々住んでた時間軸に嫌気が差していたから。こいつを作ったんだ。」そう言ってディポーターを懐から取り出した。


ペガサスは「何だそれは」と疑問を示した。レオリコは説明しようとしたが、石原が黙れと言わんばかりにトリガーを引いた。


バレルから光線が飛び出し、ポータルが生成された。


そして立ち上がりポータルの中に腕を突っ込み、違う次元のペガサスを連れてきた。


「こういうことだ。この次元のあんたはネクタイをしてるが、こっちの次元のあんたは髪が生えてる。」


そう言って困惑する別次元のペガサスを殴ってポータルに押し戻し、ポータルを閉じた。


まだ信じられないというような顔をするペガサスに「このテクノロジーはまだ主流ではないし、誰にも知られていない。」


そう言ってポケットから計算機のようなものを取り出し、カタカタと計算を始めた。


「計算してみたがあんたらの最先端の文明とやらが今後一億年経っても到達できない文明の域だそうだ。」


ペガサスはもう分かったというように「天才科学者ということはわかったから出自を答えてくれ。」と言った。


石原は「地球だ。」と答えた。

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あの日はアルストロメリアが咲かなかった。 @shiganaiya

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