最終話 これからも隣にいてくれる君へ

 あっという間の一か月。


 俺が本当の気持ちを伝えてからいつもの日常に戻った。いや、正確に言えばに進んだ、のほうが合っているのかな。


 それも、俺と結以は恋人同士として付き合い始めたのだ。


 あの後、そのまま一緒にお互いの家に向かっていた。そこで急に結以が


『そういえば私たち、お互い好きってことだよね』


 そう聞いてきた。俺は間髪入れずに『うん』とだけ相槌を打ち、結以が言葉を続ける。


『それなら、付き合う?』


『付き合うって、あの?』


『それ以外何があるの』


 急に二回目の告白を受けたから呆気にとられた。それでも俺の頭の中に答えは出ている。それを言うだけ。


 数秒だけ考えるフリをしてから俺はこう口にした。


『うん。付き合おう。これからも、隣にいてね』


 恥ずかしくて死にそう。思い出すだけで死にそう。「隣にいてね」とか重くね。これからいろんな場面で馴れ初めを聞かれるたびに悶えるんだろうな。


「え、なに。どうしたの」


「いや、なにも……」


 俺と結以は今、例の公園のベンチに座っている。今日は特に何かあるわけではない。お互いにそういう気分だっただけ。


 そこで俺が返事のことを思い出して顔を両手で覆っていると、結以が声をかけてきた。


 あの時も今も結以はいつも通りだ。俺が考えすぎなだけかもしれないけど。それでも、今までと違う関係になったわけだし、やっぱり意識してしまう。


「さて、ここで問題です。今日は何の日でしょう」


 結以はクイズ番組のMCのように問題を出してきた。急すぎて思わず「は?」と言い返しそうになったけど、答えてほしそうにしているからここは乗っかってやろう。


 今日は何の日、か。

 金曜日ではあるけど、単純すぎるな。

 そういや来週は高校に入学して初めての定期テストだな、でも今は関係ない。

 俺と結以の誕生日でもないし。


「京ちゃん」


「ちょっと待って、今考えてるから」


「そうじゃなくて」


 結以は少し張った声を出してきた。それに思わず思考を止めて、結以の顔を見る。何やら言いたげな表情をして、ってなんか怒ってる?


「あのさ、京ちゃんは考えすぎだよ。付き合ってからずっとそう。私はいつもみたいに話したいだけなのに」


 むすっとしながら腰を曲げる結以。


 考えすぎと言われえれば確かにそうだ。付き合ってからというもの、俺は彼氏として何かしないといけないのかと、余計なことばかり考えていた。別にそんなことしなくてもいつものようにしていればいいだけなのに。


 そうだと思っていても自分に自信がない。


「ご、ごめん」


「答えを当てるまで許しませーん」


 これは、なんだ。今までの結以とは違う。子どものようにいじけ、ぶっきらぼうに言う。昔にもこんなことはなかった。


 そんなに答えて欲しいなら言うしかないのか。というのも、俺は最初から答えなどわかっていた。


「付き合って、一か月?」


 だって、今日はあの日から一か月。そして、あの日と同じ場所にいる。だったら記念日と答えるほかない、はずだった。


「え」


「え、違うの!?」


 勇気を振り絞って言ったのに。多分だけど、俺の顔真っ赤になってるぞ。心なしか熱いし。とにかくもう一度考えてみよう。このままじゃ許してもら――


 この時、俺の思考が止まった。そして、意識が頬に集中する。


 頬に感じた柔らかい感触。それと同時に結以の着ている制服の匂いが風に乗る。


 さっき熱くなった顔が、さらに熱くなってきた。


「……ちょ!?」


 俺は堪らず頬を押さえた。そして、結以を見たのだが距離が近い。やっぱり、さっきのって。


「答え当ててくれたからご褒美だよ。えへへ」


「いや、あの、その。あ、ありがとう?」


「お礼しなくていいって。変なとこ真面目なんだから。そういうところも好きなんだけどさ」


 真面目というか、どう反応すればいいかわからなかっただけなんだけど。てか、さっき笑った時の顔、めっちゃ可愛かったな。よし、記憶に刷り込んでおこう。


 そんな優越に浸っていると、途端に結以は暗い表情を浮かべ始めた。


「付き合い始めてから京ちゃん、前みたいに話してくれないっていうか。いつもと同じじゃないから不安になっちゃって。いじわるしてごめんね」


 俺は告白してから正直になれていない、好きと言えていない。それが結以にとっては不安で仕方ない、ということなら。


「……こっちこそごめん。付き合うってどんな感じかわからなくて」


「それは私も一緒。いつも通りでいんだよ、きっと」


 きっと。その言葉にすべてが詰まっている。


 最初から答えがわからなくたっていい。間違えたっていい。いつも通りでいいんだ。正直になって、いいんだ。


「そうだね。いつも通りでいいよな」


「うん。変に意識されても困るし」


「ならさ、もっかいチューしてくれない?」


「あ、あれはご褒美だから! てかそれがいつも通りってどういうこと!?」


「正直になっただけじゃん……」


 俺は頬を差し出したが、きっぱりと断られてしまった。嬉しかったからお願いしてみたけどダメか。

 結以は恥ずかしいのか顔を赤くしている。さっきまでの冷静さはどこへやら。


「も、もう! 京ちゃんやっぱり変だ!」


「ごめんて。びっくりしたけど嬉しかったんだよ」


「……言わなくていい!」


 徐々に赤さを増していく顔。ついに結以はそっぽを向いてしまった。


 幼馴染の俺達と、恋人同士の俺達。同じようでまるで違う。


 今の結以だって俺が知らない結以だ。これは恋人になって気づいた一面。きっと、他にも俺の知らない結以がいるんだろうな。


「ねえ、結以」


「……なに」


「好きだよ」


「……っ! やっぱり変な京ちゃん!」


「ええ……」


 またまたそっぽを向かれてしまった。

 でも、嬉しそうだ。怒っている様子など感じない。これは俺だけがわかること。


 いつも隣にいたから、わかること。


 そして、これからも隣に君がいる。


 いつも隣にいてくれた君は、これからも隣にいてくれる君になった。離れるなんて考えられない君となら、なんでも乗り越えていけそうな気がする。


 いつか、この気持ちも伝えられるといいな。






 ――――――――――――――――――――――

 ○後書き

 最終話までお読みいただきありがとうございます!

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 さて、宣伝です。

 実は恋愛モノの長編を練っている途中なのです。

 その練習のために本作品を書きました。

 時機がきましたらまた報告しますので、お待ちいただければ幸いです。

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