片思いしてる大好きな彼がギルドを追放されたので男のフリして成り上がらせます！

旧）最終話 はじめましてリディアです

　月間ナンバーワン冒険者は毎月決まるもので、他の冒険者からすれば特に意味のない区切りだった。

　何度もトップになれば尊敬されることもあるが、運次第と思われている部分もあり、ギルドランキングに比べれば気にしている人は少ない。

　討伐数と討伐ボーナス、ダンジョン攻略ポイント、収集した資源ポイント、アシストポイントなどが評価対象だ。

　月間ナンバーワンになると、次のひと月、ステータス画面に王冠のマークが表示される。どの部門で何度一位になったか表示する欄もある。

　いま、満月の夜が明け、ランキングが切り替わる。バルザのステータス画面には王冠のマークが輝いた。

「本当にできるなんて……」

　リドは白い息を吐いた。

「信じてなかったのかよ」

「信じてたけど、そうだけど……」

　意地の悪いことを言ったと自覚のあったバルザは、苦笑いしてリドの肩を抱いた。この骨ばった体とも今日でお別れなのだ。

「とにかく、よかった。これで呪いが解けるな」

「うん。バルザ、ありがとう……」

　二人は朝日が昇るのを、丘の上から見つめていた。ダンジョンから出てきたばかりで熱を帯びた体を寄せあい、冷たい冬の風に吹かれて、その時を待っていた。

　その時を……——

「いつ戻るんだ？」

「え？　いつだろう……」

「ナンバーワンにはなっただろ？」

「えー、私にもわかんないよー！」

　二人がアイフォを覗き込んで揉めているのに気がついたソットが、遠くから声をかける。

「おーい、どうしたー？」

「なんか、戻らないんですけど！」

　リドが嘆くのに驚いた双子が駆け寄ってきてくれる。

「本当だ。まだ呪いにかかったままだ」

「ところでこの呪いは、どうやってバルザがナンバーワンになったって気が付くんだろう？」

「アイフォを見てるとか？」

「最初から、無理があったんじゃないか？」

「もー！　絶望すること言わないでー！」

　止まらない双子の掛け合いにリドが割って入る。

「ごめんよ、リド。とにかく、一度街に戻って立て直そう……」

「みんな疲れているしね」

「うん……」

　帰りの馬車の中、リドは最後部にうずくまって落ち込み続けていた。誰もかける言葉が見つからない。

「呪いをかけた本人のところに行くのが一番じゃないか？」

と、バルザが言えば、

「ペッパもそう思う」

と、呪いのスペシャリストも頷いた。

「可哀想なリドさん……あんなに可愛らしい方だったのに、女性に戻れないなんて」

　ウォリーの迂闊な発言を聞いて、その肩をソットがジト目で突ついた。

「そうか、ウォリーはリドの魂の姿を見たんだったな。ダメだぞ、横恋慕しちゃ」

「し、しませんよ。客観的に見て、可愛かっただけです」

　否定しながらも赤面するウォリーに、ソットは笑ってしまった。

「俺はまだ知らないんだから、先入観を植え付けないでくれよ……」

　冗談を言って一緒に笑ったが、バルザは柄にもなく不安になっていた。リドがいなくなることに、やはり寂しさを感じていたのだ。

　サランゼンスに到着した一行は、迷わずウワバミ亭へ向かった。

「こんな時はとにかく飲もう。いったん地の底まで落ち込んだ方がいい」

「ぬか喜びが一番きつい……」

　俯いたままのリドはキレーナに支えられるようにして歩いた。

「こんちわー」

　双子が揃って入り口を開けると、「ぱんっ」と音がして、店内に花吹雪が舞った。それがあまりに綺麗で、その場の全員が見惚れていた。

　花びらは舞い降りながら消えていく。幻影だ。

　小さな拍手が聞こえて、今度は全員の視線がカウンターに移動する。椅子に座った黒いローブの男が優雅に手を叩いていた。

「あ！　タイトスさん！」

「おめでとう」

　リドが一歩前に出ると、魔術師タイトスは背が低いことがバレないように椅子の上に立って出迎えた。店主が「降りてくれ」と言っても聞きはしない。

「どうしてここに？」

「直接お祝いしたかったからな。うん。ご苦労さん」

　タイトスは満足そうに頷いている。

「てめぇジジイ！　まだ馬鹿な商売やってんのか！」

「呪い解いてもらってからにしな。機嫌損ねたらマズイだろ」

　バルザが食ってかかるのをキレーナが後ろから押さえる。タイトスはその様子を笑って眺めていた。何を言われても約束は果たすつもりらしい。

「さ、私の可愛い呪いを返してもらうよ」

　呪いをかけた時と同じように、タイトスが魔法石のついた指輪だらけの手を燻らせた。

　するとリドの体は煙に包まれた。

　その煙がタイトスの手の中へ吸い込まれて消えると、そこには薄桃色の長い髪をした小柄な少女が立っていた。

　服装はそのままに、すっかり様子が違って見える。

「はじめ、まして……リディアです」

　ぺこりと頭を下げられて、全員がたじろいだ。こんなに愛らしい子が現れるとは思ってもみなかった。キレーナに押され、バルザが一歩前に出る。

「お、おう……」

「どう？　変？　かわいい？　だめ？」

　不安でいっぱいの眼差しで見上げられ、矢継ぎ早に質問されたバルザは、答えに窮してキョロキョロと落ち着かない。

「いや、えーっと……」

「やっぱり男がよかった？　もう一回……あ、いない！」

　リディアがそう言った時、そこにはもうタイトスの姿はなかった。焦ってオロオロする後ろ姿に、バルザはさらに困惑する。

「やっぱ、女は苦手なのかも……」

「え！」

と、ショックでバルザを見つめると、その表情は、思っていたのと少し違っていた。

「……照れてる？」

「イチからやり直しで！　ゼロスタートで頼む」

「ヤダ！　めっちゃ仲良くしてたじゃん！　一緒に寝たりしたじゃん！」

「男同士だからという油断が俺にもあった！　それは謝る！　いいから距離を取れ！」

「やだせっかく戻ったんだからイチャイチャしたい！」

　必死に懇願するリディアに、徐々に壁際へ追い詰められていくバルザ。

「長くかかりそうだな」

と、手近なテーブルに着席したペッパは頬杖をついた。

「とりあえず酒だね」

　その隣に腰を下ろしたキレーナが笑いながら言うと、

「もう持ってきましたー」

「はーいどうぞー」

と、ウォリーとソットがテーブルにカップを並べる。

「それじゃ、無事にミッション終了したことを祝って！　カンパーイ！」

　四人がカップを高々と持ち上げる後ろを、バルザとリディアが駆け抜けていく。

「両思いって言ったじゃん！」

「言ってない！　お前の思い込みだ」

　二人の追いかけっこは、まだしばらく続きそうだった。

—————————

おわり

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

♡や☆をいただけると大変励みになります。

別の小説も、ぜひよろしくお願いします！