第一話② 願いを叶える為に…

 そうして月日は流れ、その年の十月三十一日、彰人は死んだ。自殺だったと知らされたのは、その日の夕方のことだった。

 学校の裏山にある廃墟になったビルの最上階から飛び降りて、心肺停止状態だったところを散歩中の老夫婦が見つけて警察に通報したらしい。

 あの日の「もうすぐ死ぬ」と云う台詞セリフは彰人が出した最期の、心の底からのSOSだったのだ。だが、僕がそれに気がついた時にはもう遅く、大事な親友は死に、取り返しのつかないことになってしまっていた。

 そういえば、僕は彰人に愚痴を吐いていたのに彰人が愚痴を吐いているところを見たことがなかった。嫌、彰人が何か言おうとしたとき、僕が聞いてあげられなかっただけなのかもしれない。

 そう思うと、胸が締め付けられるような、胸が張り裂けそうな錯覚におちいり、何も考えられなくなって、罪悪感でいっぱいになった。

 それからは、僕は人間不信になり、学校にも行けなくなって、引きこもるようになった。

 食事もろくに喉を通らず、部屋から出る気力も湧かなくなり、一週間で頬はやつれ、目は生気を失い、目の下のクマも濃くなっていった。

 そんな中、学歴主義と云う一昔前のような思考をしている僕の両親は僕に対して進路の話を畳み掛けてきた。

「お前が学校をサボってばかりいるから、首席で入れる高校はないじゃないか!」

「あんたは元々頭も、ルックスも、運動神経も良くないのに、人一倍努力しないといけないのに、そんななら私があんたを産んだ意味がないじゃない‼︎」

と、散々暴言を吐かれた挙句、自分たちの理想を押し付けてきた。正直、そんな生活にも、そんな両親にも嫌気がさしていたのだ。

 そんなある日のことだった。僕は、いつも通り、両親が垂れ流す文句を無視して過ごしていた。だが、唐突に、何の前触れもなくふと

「死にたい」

と、思ってしまった。所謂いわゆるこれが希死念慮きしねんりょと云うやつなのだろうか。

 昔の僕は、両親の言うことが全て正しいと思っていたから、僕自身は親の操り人形のようであるとさえも思っていた。

 今となっては、両親の言うがままに行動して来た過去の自分を、操り人形のようだった自分のことを、呪い殺してしまいたいとさえも思っていた。


 この日を境に、僕は自死について考えるようになっていった。

 一番楽な自殺方法をインターネットや本で調べてみたり、その場にあったカッターナイフで手首や腕、足などの服を着れば隠れて見えなくなってしまう部分を切ってみたりもした。

 でも、自分の体を傷つけるなんて云うことはその場の一時しのぎにしかならなかった。

 リストカットやアームカットをすると、一時的に心が軽くなったように感じるが、ものの数分で其れはなくなり、先ほどよりも深く、多く切ってしまう。大麻や危険ドラックなどの依存症の人たちも同じような思いをしているのかもしれない。

 そんな生活が始まって一ヶ月、僕の体には傷のない場所が殆どなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺志願者の僕の最期の嘘。 春奈 @koharu-1104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ